研究課題/領域番号 |
20K03434
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大渓 俊幸 千葉大学, 総合安全衛生管理機構, 准教授 (60456118)
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研究分担者 |
大島 郁葉 千葉大学, 子どものこころの発達教育研究センター, 講師 (40625472)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自閉スペクトラム症 / うつ病 / NIRS |
研究実績の概要 |
抑うつ状態にある青年期の自閉スペクトラム症(ASD)者はうつ病との鑑別が難しく、治療的介入が奏効しないことがしばしばある。そこで本研究は、抑うつ状態のASD者とうつ病の鑑別診断の補助となる生物学的な客観指標を見出し、抑うつ状態のASD者に対してASDに有効とされる心理療法を行った時の効果予測指標と効果判定指標を開発することを目的とする。また、ASDに対する心理療法で改善しなかった抑うつ状態の症例については追加の介入を行うことで得られる効果を検証する。 研究期間の初年度となる2020年度は、大学生、大学院生を対象としてうつ病を併発しているASD (ASD-Dep(+))群、うつ病の併発がないASD (ASD-Dep(-))群、定型発達群の3群について、52チャンネルのnear-infrared spectroscopy (NIRS)装置を用いて測定した語流暢性課題中の前頭側頭部の脳活動のデータを解析した。 中間的なデータではあるが、ASD-Dep(+)群とASD-Dep(-)群は定型発達群よりも語流暢性課題中に両側の腹外側前頭前皮質と左背外側前頭前皮質における脳活動が低下しており、ASD-Dep(+)群とASD-Dep(-)群を比較するとASD-Dep(+)群の方が語流暢性課題中に右腹外側前頭前皮質における活動性が低下していた。また、ASD群の右腹外側前頭前皮質の語流暢性課題中の活動性の大きさとベック抑うつ質問票(BDI-II)のスコアの間に負の相関が見られ、自記式社会適応度評価尺度(SASS)の間には正の相関が見られたことから、 右腹外側前頭前皮質の活動性がASD者における自覚的なうつ症状の重症度と社会適応の程度を反映する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大学生、大学院生を対象として、NIRS装置を用いて測定した語流暢性課題中の前頭側頭部の脳活動について中間的な解析を行い、ASD群は定型発達群よりも語流暢性課題中に両側腹外側前頭前皮質と左背外側前頭前皮質の活動が低下していること、うつ病を併発しているASD群はうつ病の併発がないASD群よりも右腹外側前頭前皮質の活動性が低下していること、ASD者における右腹外側前頭前皮質の活動性が自覚的なうつ症状の重症度や社会適応の程度を反映していることなどを見出した。 2020年度は新型コロナウィルス感染症の流行拡大の影響で対象者数を十分に増やすことができなかったが、上記のような研究成果をあげることができたことから、初年度の進捗状況としては概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降も被験者の募集を継続してさらに対象者数を増やし、引き続き構造化面接、自記式質問紙を用いた状態評価とNIRSを用いた前頭側頭部における脳活動の測定を行う。また、ASD者に対して心理療法を中心とした治療的介入を行い、効果予測指標と効果判定指標を開発する。 なお、新型コロナウィルス感染症の流行状況によっては被験者の募集をいったん停止し、その時点までに集められたデータを解析、論文化して国際誌に投稿することを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は初年度となる2020年度中に米国に出張して研究に必要な情報収集と今後の研究計画についての打ち合わせをする予定でいたが、新型コロナウィルス感染症の流行拡大の影響で渡航を中止した。このため、次年度に使用額が生じることになった。
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