2022年度は、男性およびセクシュアルマイノリティの被害当事者を対象としたインタビュー調査を実施した。調査協力者は、セクシュアルマイノリティとしてインタビューに協力くださった方が8名、被害内容の記述をくださった方が6名、男性としてインタビューに協力くださった方が4名、被害内容の記述をくださった方が2名であった。インタビュー及び被害内容の記述からは、17K04441・基盤研究(C)・性被害者の援助要請行動に関する研究において行った女性の被害当事者へのインタビューと同様、従前の関係性により抵抗困難である状態が見られたが、そのプロセスでは、いじめや差別、ジェンダー規範などの利用が推測された。男性やセクシュアルマイノリティに対する性暴力被害の調査は日本においてまだ少なく、その実態についても明らかではない部分が多く存在する。本調査は、いじめや差別、ジェンダー規範といった複合的な要素が、被害に関わっている可能性を示唆する、重要な調査である。 また、2022年度はTonic immobilityの日本語版尺度の論文が出版され(齋藤・飛鳥井,2022)、PTSDとの関連も明らかとなった。尺度の信頼性と妥当性が確認されたことにより、性暴力被害を受けたときに身体が動かなくなる状態であるTonic immobilityに関する研究が、日本においても進展すると考えられる。さらに2022年度には、Tonic immobilityの発生が、被害者の被害者非難的態度を強め、PTSD症状に影響を与えている可能性を検討するため、男性600名、女性400名を対象としたオンライン調査を実施した。このような調査により、日本における性暴力被害の実態に関する知見が広く知られることで、「なぜ抵抗あるいは逃走できなかったのか」といった被害者への二次的被害が減少していくと考えられる。
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