研究課題/領域番号 |
20K03458
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
水上 喜美子 金沢大学, 医学系, 助教 (00387408)
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研究分担者 |
高橋 哲也 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 協力研究員 (00377459)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | せん妄 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
せん妄は、医学的には、何らかの身体的要因で軽度の意識障害が生じ、周りを認識する能力が落ちている状態と定義されている。Panksepp(2004)は、臨床神経科学と意識障害の研究の両方で、せん妄の神経科学的基盤に関する研究は不思議なほどに軽視されてきたと述べている。この理由の一つとして、脳の構造的な異常によってせん妄が生じるわけではないことが挙げられる。近年、脳機能に関わる画像研究などが発展し、脳ネットワークの接続性の変化がせん妄の原因であるということが指摘されるようになってきている(Sanders,2011:Rapazzini,2016)。また、Maldonado(2018)は、これまでの理論を踏まえて、The systems integration failure hypothesis (SIFH:システム統合不全説) といった新たなパラダイムでせん妄に特徴的な様々な認知・行動機能障害を説明しようと試みている。つまり、せん妄発症のリスク因子を明らかにするためには、病態生理の理解が望まれる。 今年度は、高齢期の患者を対象に、臨床場面でせん妄の診断時に測定された脳波記録を用い、脳波記録の抽出した。対象は65歳以上の高齢者とし、期間は2018年4月~2022年8月であった。脳波測定を実施していた事例は377例であり、せん妄の鑑別のために、脳波測定を実施していたのは31例であった。このうち15例は身体科の患者であり、リエゾンチームが介入していた。現在、脳波データの解析を進めており、脳のネットワークにどのような特徴があるのか検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
倫理委員会の審査に時間がかかり、計画通り進めることが難しかった。また、1月に起きた能登半島地震の影響により、研究活動を実施することが難しかった。
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今後の研究の推進方策 |
2024度は、昨年度に引き続き、臨床場面でせん妄の診断時に測定された脳波記録の解析を実施し、脳のネットワークにどのような特徴があるのか検討する予定である。また、せん妄時にどのような介入やケアがなされていたのかを分析する。これらのことが明らかになれば、せん妄の発症や遷延化を防ぐことに繋がり、せん妄の予防と管理の方法をより良く構築していくことができるようになると考えられる。患者の身体状態の悪化、その後の認知機能低下や QOL 低下の防止、家族の負担度や医療スタッフの困難度の軽減等に貢献することが期待される。 さらに、研究を進める中で、終末期患者に生じる回復できないせん妄、終末期せん妄(terminal delirium,terminal agitation)についても、リエゾンチームに薬剤調整の依頼があることが分かってきた。終末期において、低酸素血症、肝不全などの臓器障害が原因で意識障害に基づく精神障害を生じることは多いとされており、終末期に生じるせん妄の治療については、死に至る通常の過程の一部であって、修正するべきではない(Breitbart,2010)という指摘もある。終末期せん妄の実態についても検討できれば、終末期ケアの方法を確立する一助になるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
震災の影響も受け、予定通り研究を進めることができなかったため、次年度の使用額が生じた。今年度は、脳波の解析を進めていく予定である。また、終末期せん妄の実態についても検討し、エンドオブライフ・ケアという視点からも考察したいと考えている。これらの研究を進めていくために、研究費を使用する予定である。
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