研究課題/領域番号 |
20K03467
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
笹川 智子 目白大学, 心理学部, 准教授 (20454077)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 社交不安症 / 心の理論 / RMET / 自閉スペクトラム症 / 表情認知 / 解読スキル |
研究実績の概要 |
社交不安症(Social Anxiety Disorder: SAD)は極度の対人緊張を主訴とする精神疾患であり,日常生活に支障をきたすのみならず,対人関係能力の発達を大きく阻害するものである。本研究では,他者の内的な状態を汲み取る能力である「心の理論(Theory of Mind: ToM)」がSAD症状の発現に与える影響を,実験的な手続きを用いて評価することを目的とする。従来の研究では十分に検討されてこなかった,認知発達や性差,他の精神症状による影響を含めた分析を行い,ToMとSADの連関をより精緻に検証する。 本年度は,大学生サンプル500名を対象に,アジア版Reading the Mind in the Eyes Test(RMET)を実施した。RMETは,目の表情写真から正しい感情状態を読み取らせる課題であり,刺激写真の四隅に感情語を配し,写真の人物が表す感情を選ばせる。その正答数と,自閉スペクトラム症傾向の間に負の関連があることが示されている (Baron-Cohen et al., 2001)。 はじめに,課題の特徴について調べるために各表情刺激の正答率を確認した。その結果,正答率は28.8%~77.6%とばらつきがあった。RMET課題の正答数と対人交流に対する不安を測定する尺度とは有意な相関が見られなかったが,他者からの否定的な評価に対する不安とは有意な正の相関が認められた。また,抑うつとの間には有意な負の相関が示された。自閉スペクトラム症傾向を測定する尺度とは負の相関を示し,概ね先行研究を支持する結果であった。今後は,より若い年齢層に対しても同じ課題を用いて測定を行い,発達的な観点から考察を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルスの影響により、実験室内でのRMETの実施が難しいと判断し、オンライン上での実施に切り替えて課題を行った。リサーチ会社の協力を得ることで、比較的大規模な大学生サンプルのデータを収集することができたが、詳細な解析はこれから実施する。計画当初、認知発達の指標としては知能検査を用いる予定であったが、こちらも対面実施が困難であるため、オンライン実施できる課題に切り替える必要があると考えられる。こうした計画変更の影響で、申請時の予定通りには計画が進行していないことから、「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
大学生に行ったのと同様の方法で、中学生、高校生に対してもRMETを実施し、社交不安や抑うつ、自閉スペクトラム症傾向の主観指標との関連性について検討する。年齢や性別、学年や所属する学校の影響性についても精査することで、認知発達の影響について評価する。学校内で実験を行うことが困難であることから、実験協力者は調査会社を通じて募り、すべて匿名かつオンラインでの実施とする。また、新型コロナウィルスの感染状況が改善した暁には、当初の計画通り、13~18歳の協力者を募り、知能検査で測定される認知機能とRMETの関連性について評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はRMETを実験室内で実施するつもりで準備を進めていたが、新型コロナウィルスの感染状況がなかなか落ち着かず、途中でオンライン実施の方針に切り替えた。このため、実験実施が3月末に間に合わず、4月にずれ込んだため、次年度予算として支出を行う。
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