研究実績の概要 |
コロナ禍の影響により実験データの取得・分析が予定どおり進まなかったため,取り組み可能なものを優先した。具体的に,心拍変動の評価法,生理学的意義,臨床応用(心拍変動バイオフィードバック)に関するレビューを行った。継続的な心拍変動バイオフィードバックの効果の実験的検討に向け,各種のレビューによってあらためて理論的な側面を整理した。 Sakakibara(2022)(Applied Psychophysiology and Biofeedback, 47, 345-356)では,0.25Hzの呼吸統制を伴う心拍変動を分析することにより行動的ストレスやリラクセーションを評価することができ,この手法が継続的バイオフィードバック訓練の効果の推移を評価するのに役立つことを示した。さらに,心拍変動の低周波ピークを評価し,当該周波数で行うペース呼吸が圧受容体反射感度を高めることを指摘し,この手順が継続的心拍変動バイオフィードバック訓練に応用できる可能性のあることを示した。 榊原(2022)(生理心理学と精神生理学, 40, 68-92)では,はじめに心拍変動の分析法についてまとめた後,心拍変動指標と自律神経活動との関係について解説した。また,心拍変動の応用的側面として各種行動課題の評価,睡眠時の休息機能の評価,バイオフィードバックによる心拍変動の増大と臨床的有用性(および作用のメカニズム)についてまとめた。 榊原(2023)(愛知学院大学心理学部紀要, 1, 51-69)では,心拍変動バイオフィードバックの臨床効果を示す研究を中心に解説し,臨床効果に関わると考えられる心理生理学的機序(心臓血管系の共鳴過程における呼吸・心拍・血圧の連動,呼吸性洞性不整脈に関わるガス交換効率の向上,心肺系休息機能の向上,圧受容体反射感度の増加,圧受容体反射に関わる中枢刺激)について指摘した。
|