研究課題
本研究は、感覚処理の時間分解能の個人差が定型発達者と社会認知機能の障害をもつ自閉スペクトラム症や統合失調症の社会認知機能の個人差を説明できるか検討するものである。今年度は、感染症対策のために停止していた、定型発達の大学生を対象とした実験を本格的に再開した。第一に、視聴覚刺激の時間分解能を反映する視聴覚統合能力と視聴覚情報を含む対人相互作用場面の感情を認識する能力との関連を検討した。現時点で55名のデータを取得しているが、解析に必要なサンプルサイズには達していないため実験を継続中である。この課題では、視聴覚統合能力の高い人ほど対人相互作用場面での感情認識能力が高いことを予測しており、次年度は視聴覚統合や感情認識の障害を示す自閉スペクトラム症群で同様の関係がみられるか検討する。第二に、社会認知機能測定に用いる課題を選定するためにいくつかの実験を行った。その一つとして、時間を通じた統合の要素を含む動画表情を用いて視線方向への注意シフトの促進が生じるか検討した。79名の参加者からデータを取得して解析を行ったが、先行研究の結果に反して情動表情による促進効果がみられず、知的機能、自閉症特性、その他の情動的な特徴の個人差との関連も見られなかった。そのため、使用する課題について再度検討している。この課題については自閉スペクトラム症などの臨床群でのデータ取得も進んでいる。上記の定型発達群79名のデータでは視線方向への注意シフトという現象自体は確認できているため、臨床群との比較を行う予定である。
4: 遅れている
新型コロナ感染症の蔓延によって特に臨床群の参加者のリクルートが難しく、十分なデータを取得できなかった。また、厳密な制御とノイズのない環境が必要な実験を含むため、オンライン実験への切り替えが困難であった。
定型発達者および神経発達症を持つ小児・成人の多機関でのリクルート体制を整え、スムーズにデータを取得できる環境を構築できた。次年度は、感染症対策を行いながらとりわけ臨床群を対象とした実験実施を加速したいと考えている。
新型コロナ感染症のため、実験実施および出張が十分にできなかったことが次年度使用額が生じた理由である。次年度使用額分は実験参加者への謝金、他機関での実験実施に伴う出張費に用いる。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Brain Imaging and Behavior
巻: - ページ: -
10.1007/s11682-021-00626-1
Royal Society Open Science
巻: 8 ページ: 211322
10.1098/rsos.211322