研究課題
本研究は、感覚処理の時間分解能の個人差が定型発達者と社会認知機能の障害をもつ自閉スペクトラム症(ASD)や統合失調症の社会認知機能の個人差を説明できるか検討するものである。第一に、定型発達の大学生を対象に、視聴覚刺激の時間分解能を反映する視聴覚統合能力と視聴覚情報を含む対人相互作用場面で他社の感情を認識する能力との関連を調べた実験の解析を行った。基礎的な視聴覚統合能力の高い人ほど視聴覚情報が存在する対人相互作用場面での感情認識能力が高いことが示され、視聴覚統合という基礎的な機能の違いによって社会認知機能の個人差が説明できる可能性が示唆された。本研究の結果は投稿準備中である。第二に、時間を通じた統合の要素を含む動画表情を用いて視線方向への注意シフトの促進が生じるかについて、定型発達児および自閉スペクトラム症(ASD)や注意・欠如多動症(ADHD)のある児童・成人を対象に実験を行い、様々な機能との関連を検討している。視線手掛かりの注意シフトへの効果は成人か児童か、定型発達か神経発達症があるかに関わらず頑健にみられたが、先行研究の結果に反して情動表情による促進効果がみられなかった。ADHDのある成人と定型発達の成人の比較では、ADHDのある成人で視線手がかり効果が小さいが、ADHDの不注意症状と正の相関が認められた。この結果は、ADHDのある成人でも社会的認知の困難さがあり、不注意症状はそれとは別に視線手がかり効果に影響することを示唆する(国際誌に掲載済み)。今後は、ASDおよびASDとADHDのある児童や成人における視線手がかり効果をはじめとする社会認知機能と様々な機能との関連について解析を進め、投稿する予定である。
2: おおむね順調に進展している
前年度まで遅れがみられたが、臨床群の成人・児童のリクルートが進み研究が加速したと考えられる。
定型発達者および神経発達症を持つ小児・成人の多機関でのデータを取得が進んだことで結果がまとまったため、次年度は論文発表に注力する。
新型コロナ感染症により研究の進捗が遅れていたため。残額は次年度のデータ取得と成果発表の費用に充てる。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Journal of Psychiatric Research
巻: 168 ページ: 310~317
10.1016/j.jpsychires.2023.10.045