研究課題
本研究は嗅覚刺激が脳の機能、神経再生に与える影響を明らかにし、認知症を予防する為の嗅覚からアプローチする脳トレーニング法を創出することを目的とし、以下の3つの問いを明らかにするとした。①嗅覚刺激は高齢者の嗅内野皮質、海馬、前頭葉の活動性を上昇させるか。②マウスの嗅覚刺激はヒトと類似した脳領域を介するのか。③嗅覚刺激は嗅球、海馬の神経再生を促進させるのか。今年度はこの中で、①の嗅覚刺激は高齢者の嗅内野皮質、海馬、前頭葉の活動性を上昇させるかに焦点を置き研究を進めた。ヒト高齢者において機能的磁気共鳴画像撮像下(fMRI)で記憶と結びついた嗅覚刺激を行い、脳活動領域を明らかした。高齢者27例の撮像脳画像の解析の為の前処理、個々の活動領域の抽出、グループ解析を行った。結果、記憶を想起する嗅覚刺激(香りによる自伝的記憶)は、左眼窩前頭葉と左紡錘状回の活動を高めることを認めた。またその活動の上昇はコントロールの嗅覚刺激(記憶と結びつかない刺激)と比較し高いことを示した。またこれら2つの領域は、本人が感じる記憶想起度、引き戻し感、心地良さなどの主観的スコアが高いほど活動が高くなることがわかった。本内容に関する論文は現在執筆を終え、2021年4月に投稿予定である。また同時に、27例の解剖画像から嗅覚領域である海馬、扁桃体、海馬傍回、眼窩前頭葉の体積を抽出し、高齢者の嗅覚低下程度と各部位の体積減少との関係性を明らかにし論文として出版した。
1: 当初の計画以上に進展している
申請前の準備の段階にて既に高齢者20例の脳画像を測定していた為、早い段階でもう7例の測定を終了することができた。機能画像(脳の活動レベルを測定)と解剖画像(脳の体積を測定)の両方から得られるデータにより、嗅覚、記憶と脳機能、及び構造の関連性をより明確に示すことができた。また今年度から動物実験の準備を平行して行っており、既に覚醒下での嗅覚刺激法、呼吸測定法も確立し順調に実験をスタートできる予定である。
今年度より本研究の目的を達成するため、②マウスの嗅覚刺激はヒトと類似した脳領域を介するのか。③嗅覚刺激は嗅球、海馬の神経再生を促進させるのかを開始する予定である。ヒトでのデータ収集を終え、解析と論文化を進めると同時に、動物実験の嗅覚刺激法、呼吸測定の準備をしてきた。今年度8月までにプロトコルを確立し、9月より測定を開始する予定である。また8月までに、細胞分裂マーカーBrdUの投与の方法、および神経再生の速度と量をターゲットとする嗅球、海馬歯状回での神経の測定を確立する予定である。すでに数例で予備実験を終え、9月以降にスムースに進むようもう数例で実験を進める。
今年度はこれまで行ってきたヒトでの脳解析が主であった為、必要な物品は揃っていた。次年度では新しく動物実験を開始する為、動物用防音室の設備に使用したい。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
Psychiatry Research
巻: 23 ページ: 112909-112909
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