研究課題
本研究は嗅覚刺激が脳の機能、神経再生に与える影響を明らかにし、認知症を予防する為の嗅覚からアプローチする脳トレーニング法を創出することを目的とし、以下の3つの問いを明らかにするとした。①嗅覚刺激は高齢者の嗅内野皮質、海馬、前頭葉の活動性を上昇させるか。②マウスの嗅覚刺激はヒトと類似した脳領域を介するのか。③嗅覚刺激は嗅球、海馬の神経再生を促進させるのか。前年度はヒトにおける記憶を想起する嗅覚刺激についての解析は進み、今年度は①のテーマについての論文化が達成した。また②の動物実験にとりかかることができた。マウス18個体をエンリッチな(豊かな)匂い環境と匂いなしに分け、エンリッチな匂い環境による嗅球、海馬の神経再生の量的測定を試みた。エンリッチな匂い環境下でのマウスは、嗅球の顆粒細胞、僧帽細胞において神経の新生が匂いなしのマウスと比較し有意に多く、また細胞の新生数は呼吸回数(スニッフィング)と相関していた。本結果を論文としてまとめ、現在投稿中である。①、②の結果は神経科学会、生理学会にて発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
コロナ渦において授業がオンライン化され、実験に集中することができた。また解析も大学院生の力を得てスムースに進めることができた。
これまでにエンリッチ匂い環境では嗅球における神経の新生は認められてきたが、海馬には新生がみられないことがわかってきた。今年度は、海馬の記憶システムと嗅覚刺激との関係をより明確にし、嗅覚と空間認知、嗅覚と動機づけなどの観点から研究を進めていきたい。まず、これまで撮像してきたヒトにおける記憶と嗅覚の脳内関連を明らかにするため、高齢者群と若年者群とにおいて嗅覚による記憶想起が、どのような主観的指標に相関するかを明らかにしたい。またその関連性をベースにマウスの実験の行動実験的プトロコルに落とし込むことを目標とする。
当該年度に残高が生じた理由として、現在実験室に設置してある装置、薬品を使用することができ、新たに購入せずに実験を実行できたことがあげられる。今後は、動物行動実験を行う為のカメラ、行動実験用機器を購入予定である。また当該年度の結果からの疑問を解決する為、ヒトの実験データを用いて再度解析を試みる予定ある。その為のヒト脳機能解析用の高速計算用PCを購入する予定である。
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