研究課題
本研究は嗅覚刺激が脳の神経新生に与える影響と脳機能の向上、特に認知機能への効果を明らかにし、嗅覚からアプローチする脳トレーニング法を創出することを目的とする。①嗅覚刺激による高齢者の嗅内野皮質、海馬、前頭葉の活動性、②マウスの嗅覚刺激は嗅球、海馬の神経新生を促進させるかの2つの問いについて検証した。①のヒトにおける機能的磁気共鳴画像を用いた研究では、記憶とリンクしない嗅覚刺激において扁桃体と眼窩前頭葉との関連性を明らかにし、論文化した(Brain & Behavior, 2023)。嗅覚の検知、認知レベルを高く維持するためには、扁桃体の活動性が重要であることが分った。また認知については、扁桃体の活動性の高さは必要であるが、前頭葉の活動性を必要としない。すなわち扁桃体から上位の前頭葉への情報が豊富であると、前頭葉は強く反応せずに、嗅覚の認知が高まることがわかった。②のマウスを用いた研究では、前年度におこなった実験の解析を終え、論文化(Neuroscience Research, 2022)することができた。マウスにエンリッチな嗅覚環境を与えると嗅球の神経新生が促進される。またその神経新生の数は呼吸回数と相関することを示した。単に様々な刺激を与えるだけでなく、個体の呼吸数にも神経新生の促進は依存することを示した。マウスにおけるエンリッチな嗅覚環境の実験結果から、海馬の神経新生は認められなかったことから、記憶に連結した嗅覚刺激ではどうなるか、を検証する必要がある。
1: 当初の計画以上に進展している
動物実験、ヒトの実験の担当者が効率良く分担して作業を進めることができた。また限られた時間の中、実現可能な計画をしっかり立て、それに従って行ったことが良かった。
動物、ヒトの研究から明らかになってきた事を基礎に、実際に脳トレーニングをして実用化するためにはどのような嗅覚刺激と刺激方法が良いのかを明らかにする。ヒトにおいて記憶を想起する嗅覚刺激は、前頭葉の活動とともに視覚領域の活動が高い。嗅覚刺激による記憶に基づくビジュアルイメージが重要であることが示された。過去のビジュアルイメージが可能である者は、将来のビジュアルイメージも可能でありこれが認知機能に重要であると予想される。高齢者において認知機能が優れている群、低下がみられる群において嗅覚によるビジュアルイメージができているか、否かを明らかにしたい。
動物実験では新たに購入するカメラ、行動実験用機器は学内共同研究者の備品を使用することができたので購入せずに実行できた。またヒトの脳画像の解析に使用するPCの購入の予定を立てていたが、現在のPC2台を利用し、解析できた。以上の2点の理由により当該年度に残高が生じた。次年度は、これまで脳画像を撮像した高齢者に対し、生活指標などの質問紙を実施する予定であり、その謝礼、および人件費、部屋のレンタル代金に使用する予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件)
Brain and Behavior
巻: e2956 ページ: -
10.1002/brb3.2956
Neurosicence Research
巻: 182 ページ: 52059
10.1016/j.neures.2022.05.007