研究課題/領域番号 |
20K03483
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
稲田 健 北里大学, 医学部, 教授 (90365164)
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研究分担者 |
押淵 英弘 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (90568073)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ストレス脆弱性 / レジリエンス / ドーパミン / 恐怖記憶ストレス / 情動記憶処理 |
研究実績の概要 |
精神疾患に共通する病態としてストレスへの脆弱性が想定され、ストレスに対抗する回復力としてレジリエンスが注目されている。これまでに申請者は、恐怖記憶ストレス負荷時のドーパミン神経の過活動がストレス脆弱性と関連することを示してきた。一方世界では、恐怖記憶ストレス負荷時のドーパミンは、恐怖記憶の消去にも関与することが示されている。以上より恐怖記憶ストレスにおいて、ドーパミンが脆弱性とレジリエンスの両方に関与することが示唆される。本研究では恐怖記憶ストレスを用いた情動記憶障害モデルラットを用いて、「ある域値以下のドーパミン放出が情動記憶を消去する」という仮説を検証し、ドーパミンの働きから、レジリエンスの生物学的機構を解明し、精神疾患の治療戦略に貢献する基盤的知見を得ることを目的とする。 本研究では恐怖記憶ストレスを用いた情動記憶障害モデルラットを用いて、「ある域値以下のドーパミン放出が情動記憶を消去する」という仮説を検証する。 恐怖条件付けによる情動記憶障害モデルラットを作成した。8週令雄性S.D.ラットを使用し、恐怖条件づけ刺激CS(80 dBのブザー音)と非条件付け刺激US(0.8 mA・0.5 秒間の電気フットショック)とを同時に暴露し、20分間に5回、3日間連続で行った。このモデルラットに、CSを提示し、すくみ行動の時間を測定し、初回からの減衰/増強の変化を観察した。また、ドーパミン神経伝達に影響を与える抗精神病薬を投与すると、すくみ時間の減衰が変化することを見出した。 今後は、各種の条件によって、すくみ時間の減衰がどのように変化するのかを検討し、情動記憶とドーパミン神経伝達の関係についての考察を深めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では恐怖記憶ストレスを用いた情動記憶障害モデルラットを用いて、「ある域値以下のドーパミン放出が情動記憶を消去する」という仮説を検証する。 恐怖条件付けによる情動記憶障害モデルラットを作成した。8週令雄性S.D.ラットを使用し、恐怖条件づけ条件づけ刺激CS(80 dBのブザー音)と非条件付け刺激US(0.8 mA・0.5 秒間の電気フットショック)とを同時に暴露し、20分間に5回、3日間連続で行った。 情動記憶障害モデルラットに、CSを提示し、すくみ行動の時間を測定し、初回からの減衰/増強の変化を観察した。すくみ行動を休息行動や睡眠行動と鑑別するために、脳波、筋電図と行動の同時測定を行い、評価基準を固定させるなどの技術的課題を克服した。CS提示後のすくみ行動は、CS10回目まで一貫して減少した。 このモデルにおいて、ドーパミン神経伝達に影響を与える抗精神病薬(ハロペリドール:HAL)を投与すると、すくみ時間の減衰に変化が生じた。すくみ時間の減少は、生理食塩水投与群(SAL群)に比して、ハロペリドール0.05㎎/㎏体重群(HAL0.05群)と0.1㎎/㎏体重群(HAL0.1群)では遅延し、HAL1.0群では早期に生じた。とくにCS3時点でのすくみ時間の減少は、SAL群に比して、HAL0.1群でのみ遅延していた。 以上の結果から、扁桃体ドーパミンは、少ない放出だと情動記憶処理の消去を促進し・多い放出だと抑制するdual action仮説がある (Kwon. Nuron, 2015)。HALは扁桃体ドーパミンの放出を促進する (Oshibuchi, 2009)。以上より、ドーパミン受容体遮断薬である抗精神病薬は、扁桃体ドーパミンの1)放出を促進する作用と2)伝達を遮断する作用により、情動記憶消去を制御している可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに恐怖条件付けによる行動観察から情動記憶処理に伴う行動と扁桃体ドーパミン応答性放出の相関性が検討された。今後扁桃体ドパミンをマイクロダイアリシス法を用いて測定し、生化学的な相関性を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
残金1,877円は次年度に持ち越し使用する。
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