研究課題/領域番号 |
20K03489
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
高橋 美樹 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (90415216)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 聴覚フィードバック / 乳児 / 発声学習 / 社会的フィードバック |
研究実績の概要 |
自分の発声を聞いて、実時間で発声の調整を行う聴覚フィードバックは、詳細な発声の学習や維持に欠かせない。しかし、発声学習の基盤となる聴覚フィードバックによる発声制御に関しては、3歳児以下では確認されていない。本研究では、 1)聴覚フィードバックが有効になる以前の乳幼児で自己発声音をどのように聞いているのか、2)自己発声と社会的フィードバックによる発声制御は、どのように機能するのか、を行動レベルと脳活動レベルから解明することを目的とする。 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により当初の計画を実施する状況にないことから、計画を一部見直している。最も深刻な影響が出たのは、研究室への来室を前提とした対面式の調査ができなかったことである。そこで、オンライン形式での実験について情報収取を行っている。オンラインでの調査については、学会が開催するセミナーに参加するなどして、実験に用いるプログラムやデータ取得方法、解析方法などの情報が集まりつつある。 聴覚フィードバックが機能するかを直接検証するには、乳児自身が発声するまで待つ必要があり、調査が長くなりがちである。そこで、あらかじめ録音した自己発声を刺激として、その音声への選好を調べる手法を検討している。また、現在スマートフォンで動く遅延聴覚フィードバックのアプリが開発されており、このような既成アプリを利用し、乳児が自宅から参加可能な聴覚フィードバックの課題も検討している。 新規データ取得は難しい時期であったことから、既存の乳児の音声データを利用した音声発達研究を行った。発声そのものを学習するヒト乳児と小鳥を対象として、音声発達を比較したところ、種差を超えて音声発達に共通する特徴がみられた。この結果を論文としてまとめ、国際誌に発表した(Takahasi et al. 2020, Journal of Language Evolution)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
対面式の調査の実施が困難なことから、脳活動の計測は延期している。初年度に計上していた脳波装置は、実験の見込みが出てから購入する。それまでに、オンライン形式での調査や短時間の接触で済むような対面式調査を検討している。必要な感染症対策を行ったうえで可能な範囲の調査を模索しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、乳幼児が自分自身の音声を実時間でどのように聴いて、発声制御へと利用しているのかを明らかにすることである。本研究で得られる知見は、言語発達の理解を深めるだけではなく、発声・聴覚障害児への応用も考えられることから、引き続き実験方法の転換をしながらも、目的の遂行を目指す。 もっとも早く実施が可能と見込まれるのは、既成のスマートフォンアプリを利用した遅延聴覚フィードバックの影響を調べることである。このアプリでは、遅延聴覚フィードバック中の発声も録音できることから、発声データの集約をおこない解析することは可能と思われる。対象年齢は4,5歳とし、遅延聴覚フィードバック中に短い文章を話してもらい、その発声を各家庭で録音する。発声データの集約が難しい場合には、養育者による評定(話しにくそうにみえる、言い間違いが多い、話したがらなくなったなどの項目)で、発話の変化を評価する方法が可能である。幼児を対象とした聴覚フィードバックの実験では、ピッチ変化による影響が4,5歳ではみられたが、2,3歳では影響がなかったと結論付けているMacDonald et al. 2011, Current Biology 22)。遅延聴覚フィードバックでも2,3歳で影響がみられないのか検討する価値はあり、2,3歳でも可能な実験手法としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により研究計画を見直しする必要があり、国際学会や脳波計の購入ができなかったたため。次年度に繰り越して、国際学会主催のオンラインセミナーへの参加や、接触の少ない実験を行い、謝金等に充当する予定である。
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