研究実績の概要 |
本研究1-2年度目の目的は、統合失調症における認知機能障害に関連する神経伝達系の異常を、複数の神経伝達系の働きの同時測定から明らかにすることにある。とくに1年目では、アイトラッカーを用いた瞳孔径の測定により、とくに交感神経(ノルアドレナリン、NA)系と副交感神経(アセチルコリン、Ach)系のはたらきを同時推定する手法を確立し、他の精神疾患(ADHD)患者群を対象として手法の妥当性を確認した(Shirama et al., 2020, PlosOne; Nobukawa et al., 2021, Scientific Reports)。 神経活動時系列における複雑性の低下は,さまざまな精神疾患(うつ,統合失調症,アルツハイマー型認知症等)と関連づけられる。なかでも瞳孔径の自発的変動はヒップス(hippus)と呼ばれ,青斑核の活動を反映する。異常なヒップスをもつ患者はそうでない患者と比べ,入院後1ヶ月の累積死亡率が3倍になることが知られ(Denny et al., 2008),神経系の異常を反映すると考えられる。しかし瞳孔径の制御神経系は複雑であり,これまでの解析法には限界があった。そこで本研究では,瞳孔径時系列の複雑性と非対称性を組み合わせた解析により,交感・副交感神経系,青斑核神経活動のリアルタイム推定法を作成した(Nobukawa et al., 2021, Frontiers in Physiology)。 なお解析方法の確立に関して,千葉工業大学と福井大学の研究者から協力を得た。この評価システムについては,現在,国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターと千葉工業大学,昭和大学,福井大学で特許を共同出願(特願2020-168949)を行なった。
|