研究課題/領域番号 |
20K03497
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大塚 結喜 京都大学, こころの未来研究センター, 研究員 (60456811)
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研究分担者 |
志澤 美保 京都府立医科大学, 医学部, 准教授 (00432279)
佐藤 鮎美 島根大学, 学術研究院人間科学系, 講師 (90638181)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高齢者 / 実行系機能 / 抑制機能 |
研究実績の概要 |
高齢者の認知機能に関する従来の研究は記憶の低下に主たる関心を置いてきたが,本研究は社会性低下メカニズムを解明することを目的とする.本研究では,「なぜ高齢者の社会性は低下するのか」という一般的な問いを,「なぜ高齢者は他者を慮ることが難しくなるのか」と換言して本研究課題の核心をなす「問い」とし,ポジティブ効果を手がかりとして,抑制機能の低下と感情の関連性を明らかにする研究を行い,高齢者の社会性維持に貢献しうる新たな知見を導き出す.具体的には,加齢によって抑制機能と感情機能はどのように変化し,社会性低下に影響を及ぼすのか,そのメカニズムを解明することを目的とする.令和2年度には、加齢による抑制機能の変化を捉えるために、高齢者の認知機能の指標としてよく知られているTrail Making Testと、我々の高次認知活動を可能にしている実行系機能の3つのサブシステム(抑制機能・更新機能・切替機能)の関連性を検討した。具体的にはTrail Making Testを従属変数とし、抑制機能・更新機能・切替機能の3つの実行系機能の指標を独立変数として重回帰分析を実施した。その結果、Trail Making Testの遂行にとって重要なのは3つの実行系機能のうち更新機能と切替機能であり、抑制機能は寄与していない可能性が示された。この結果から、高齢者の社会性維持にとって重要である抑制機能が、高齢者の認知機能の維持には貢献していないことが明らかになった。このことは抑制機能が高齢者の社会性維持に特化して貢献している可能性を示しており、加齢による社会性低下メカニズムを解明する大きな手掛かりを得ることができた。以上の成果を、オンラインで開催された国際学会61st Annual Meeting of the Psychonomic Societyで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、本研究の進捗はやや遅れている状況である。とくに重篤化リスクの高い高齢者を対象とする実験については、外出自粛要請が自治体から呼びかけられている中での実施には慎重にならざるをえない状況である。そのような状況を鑑みて、実施計画を変更し、若年者を対象とする実験を前倒しで実施することとした。また研究代表者が在籍している京都大学が所在する京都府では緊急事態宣言が発令されるなど感染拡大の状況を予測することが困難であったため、共同研究者が在籍している島根大学が所在する島根県では感染拡大の可能性が低かったことから、令和2年度は京都大学で実施する予定だった実験を島根大学で実施することに変更した。視線計測を用いてポジティブ効果が若年者のToMにおける抑制を阻害しているか検討した.ToM課題である日本語版「目から心を読むテスト」(Baron-Cohen et al. 1997)を,大学生約30名に実施した.このテストは,人間の眼差しをトリミングした写真を刺激として提示し,それが示す感情を4択で回答する課題である.本研究では,この課題を行なっている参加者の視線を計測した(計測装置Tobii製4Cアイトラッカーと,島根大学で開発した4Cアイトラッカー専用プログラムを用いて計測した).そのうえで島根大学の学生76名と大阪大学の学生80名を対象とする予備調査で測定した感情価をもとに,ポジティブなフィラーへの注視時間がネガティブなフィラーへの注視時間よりも増大するかどうか、現在データ分析を行なって検討している。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、重篤化リスクの高い高齢者を対象とする実験の実施には慎重にならざるをえない状況であったが、ワクチン接種が進むことで高齢者を対象とする実験も開始できるようになると考えている。また新型コロナウイルス感染症の感染拡大がある程度定期的に生じるようになっているので、感染拡大がある程度収まると予測されている時期に感染対策を講じたうえで高齢者のToMにおける抑制機能と感情機能の関係を脳活動から検討する.具体的には、高齢者約40名を対象に,日本語版「目から心を読むテスト」を実施中の脳活動を,機能的磁気共鳴画像法(fMRI:こころの未来研究センター連携MRI研究施設使用)を用いて行なう予定である.まず「フィラーが感情的にポジティブなとき vs.フィラーが感情的にネガティブなとき」の脳活動の比較を行ない,高齢者の感情機能に関わる脳領域を特定する.そして併せてフィラーへの注視時間が短い人(不要な情報をうまく抑制できている)と,長い人(不要な情報をうまく抑制できていない)の脳活動も比較し,抑制機能に影響を与えている感情機能を脳領域の面から特定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、とくに重篤化リスクの高い高齢者を対象とする実験については、外出自粛要請が自治体から呼びかけられている中での実施には慎重にならざるをえない状況であった。そのような状況を鑑みて、高齢者の実験の実施を延期したために生じた。次年度は、ワクチン接種が進むことで高齢者を対象とする実験も開始できる可能性が高く、また新型コロナウイルス感染症の感染拡大がある程度定期的に生じるようになっているので、感染拡大がある程度収まると予測されている時期に感染対策を講じたうえで高齢者の実験を実施する予定であり、その実施に使用する予定である。
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