研究課題/領域番号 |
20K03503
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田谷 修一郎 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 講師 (80401933)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 視覚的充填 / 視覚的補完 / 視覚マスキング / 錯視 / 周辺視 / 視覚的意識 |
研究実績の概要 |
特定のテクスチャパタンを持つ領域を視野中心部へ呈示する直前に,その領域と同じ形の高コントラスト線分を短時間呈示して領域の輪郭をマスクすると,主観的にはテクスチャパタンが領域の輪郭を超え,視野全体に広がって見える。本研究では,筆者の発見したこの「マスク誘導充填(Mask-induced filling out)」現象(https://www.youtube.com/watch?v=gR-tftljQx4)を題材に,人間の視覚における補完のメカニズムを検討している。
視覚的充填現象について,これまでに提案されている説明モデルは大きく2種類に分類することができる。そのひとつは,視覚情報の欠損部位には,その周辺の色やテクスチャの神経表象のコピーが充填されると考えるもので,こちらは同型(isomorphic)理論と呼ばれる。もう一方は,情報の欠損部位全体が特定の色やテクスチャの「ラベル」によって一括して置き換えられると考えるものであり,こちらはシンボル理論ないしは認知理論と呼ばれる。言い換えれば,欠損部位に充填された見え(テクスチャ要素等)にレティノトピックに対応した神経表象が形成されることを仮定するのが前者であり,それを仮定しないのが後者であるといえる。本年度はこの理論のうちいずれかが妥当かを検討する心理物理実験を行った。これまでに得られたサンプルサイズは事前に設計した実験参加者数にはまだ満たないものの,予備実験の結果からはシンボル理論を支持する結果が得られている。
加えて,アウトリーチ活動の一環として,日本心理学会第85回大会にて,本研究の題材である特定の視覚パターンとその動き(動的な画像提示)を組み合わせた錯視映像をCavalryというソフトウェアで作成するためのオンラインワークショップを開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年度に引き続き、コロナ禍の影響により実験室に参加者を呼ぶ事が難しく、特に人を対象とした実験の遂行が大幅に遅れている。これにより学会発表や論文の投稿も事前の計画通りに進んでいるとは言い難いため,遅れているという評価が妥当と考える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は大学キャンパスでの対面授業が再開されたため,当初の計画に沿って実験室にて対面実験を行うことが可能となると思われる。実験プログラムや実験装置などの準備はおおむね済んでいるので,今年度は前半のうちに予定していた実験を遂行し,後半は論文にはそれまでに得られたデータで論文を執筆することに時間を投じて,研究計画を完了させたい。また、データ収集効率化のため、置き換え可能な場合オンライン実験も併用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により当初予定していた対面実験が遂行できなかった。このために,計画していた実験補助者および実験参加者への謝金の使用機会がなく,また実験再開の目処が立たない中,実験機材の購入を見送った。加えて,発表を計画していた国内外の学会が全て中止またはオンライン開催となり,旅費を使用しなかったことが主な理由である。進捗の遅れを取り戻すためにも,繰越分を本研究の推進をサポートする人件費(実験プログラムの外注や実験補助員の雇用等)やオンラインでデータを取得するためのクラウドソーシングサービスへの支払いに充て,研究の円滑な遂行を目指したい。加えて,論文投稿のための英文校正費,およびオープンアクセスのための追加料金も含めた掲載料の支払いに用いる予定である。
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