研究実績の概要 |
本研究課題は、歩行動作に見られる個人差が、性格特性および性格特性と関連する運動知覚の個人差に起因しているかを明らかにすることを目的として実施した。2022年度は、実験参加者が対面した歩行者の接近運動を知覚するときの、脳活動と性格特性の個人差を検討した。 2021年度までに、光点のみで表した歩行者の動き(point-light walker:PLW)をヒト実物大で作成した映像を視覚刺激として作成し、これを実験参加者に観察させた際の脳波を計測した。その結果、PLWが前方(モニタを正面で観察する実験参加者にとっては接近と感じられる方向)に歩行し始めてから100ミリ秒後付近の陰性の事象関連脳電位(event-related potential: ERP)について、自閉症特性の強さを答える自記式質問紙の得点が高い実験参加者ほど潜時が長かったことがわかった(Ichikawa et al., 2019; Inokuchi et al., 2022)。これは自閉症特性が高いほど接近運動に対するERP成分の潜時が長くなることを示した先行研究(Yamasaki et al., 2011)の結果と合致する。 この実験結果を日常により近い視覚刺激を用いても検討することを目的とし、2022年度は、ヒト実物大のバーチャルキャラクタで歩行者の動きを作成し、これを実験参加者に観察させた際の脳波を計測した。計測した脳波から抽出したERP成分の潜時と振幅を用いた全状態探索による重回帰分析を行ったところ、SATQ値をよく予測したのはP200の左後側頭部における振幅と右後側頭部における潜時であった(Inokuchi et al., 2023)。 これらの結果から、他者とすれ違う際のぎこちない歩行動作は他者の接近運動の知覚の遅さに起因すること、知覚の個人差は性格特性の一つである自閉症特性と関連する可能性が示された。
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