研究実績の概要 |
kを体,Kをkの有限次分離拡大とするとき,K/kのノルム1トーラスT=R^(1)_{K/k}(G_m)がretract rationalかどうか,retract rationalのときはstably rationalかどうかを問う有理性問題を扱った.K/kの拡大次数をn,LをK/kのGalois閉包とするとき,L/kのGalois群はn次対称群S_nの可移部分群と同一視できる.そこで,この有理性問題はS_nの可移部分群の共役類に対応する.先行研究により,K/kがGalois拡大のときはすべて解決済みである(遠藤,宮田).しかしK/kがGalois拡大ではない場合については多くは知られていなかった.nが素数のときはretract rationalであることは知られていた(Colliot-thelene,Sansuc). nが4以下のときはKunyavskiiらの結果によりすでに解決済みである.n=5,6,7,11のときは新潟大学の星明考さんとの以前の共同研究ですでに解決済みである.新潟大学の星明考さんと共同研究によりn=8,9,10の場合について,9T27,10T11の場合を除いてすべて解決した.この結果は論文としてIsrael Journal of Mathematicsから出版された.新潟大学の星明考さん,長谷川寿人さんとの共同研究により10T11の場合を解決し,n=12,13,14,15の場合も解決したがこの結果は先に論文として出版された.9T27の場合は依然未解決のままである. この研究は理論的な部分と計算機を用いて計算した部分がある.開発したアルゴリズムはhttps://www.math.kyoto-u.ac.jp/~yamasaki/Algorithm/RatProbAlgTori で公開していて,誰でも無料でダウンロードして計算できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
kを体,Gをkの絶対Galois群とする.このとき,k上の代数的トーラスTと,G加群としてのTの指標加群X(T)の間の双対性が知られている(小野).特に,kが代数的数体でTがノルム1トーラスの場合は,Tの弱近似定理の成否を表す量としてA(T),Tのハッセノルム原理の成否を表す量としてShafarevich-Tate群ш(T)があり,完全系列 0 → A(T) → H^1(k,Pic X) → ш(T) → 0 が知られている(Voskresenskii).ただし,Pic XはTの滑らかなコンパクト化XのPicard群とし,H^1(k,Pic X)は正確には1次コホモロジーのPontryagin双対となる. 私は新潟大学の星明考さん,金井和貴さんとの共同研究でkが代数的数体でK/kが15次以下のとき,K/kのノルム1トーラスT=R^(1)_{K/k}(G_m)に対してハッセノルム原理の成否が成り立つ必要十分条件を決定した.nが素数のときやn=4,6のときなどは先行研究ですでに知られていたが,特にn=8,12のときはほとんど知られていなかった.n=12以外のときについては論文がMath. Comp.から出版される予定である.n=12の場合についても論文を投稿中である.また,RIMSで行われた研究集会「代数的整数論とその周辺2021」で研究成果発表を行った. この研究では証明に計算機を用いているが,今回開発したアルゴリズムについては, 数式処理ソフトGAPのプログラムを私のホームページ https://www.math.kyoto-u.ac.jp/~yamasaki/Algorithm/Norm1ToriHNP で公開していて,誰でも無料でダウンロードして計算できる.
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