研究課題/領域番号 |
20K03514
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
木村 俊一 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (10284150)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | モチビックゼータ / コラッツ予想 / Conway ゲーム理論 |
研究実績の概要 |
(1)コラッツ予想に関するモチビックゼータ(Lagarias のQ関数)についての研究を進め、特に奇数の 2進数 p が2次の無理数であった場合に、奇数 x を (px+1)/2 へ送るパターンのコラッツ予想のアナロジーについて、コラッツ予想が成り立たない p の新しい例の証明を進め、一方でコラッツ予想(正確にはサイクル予想)が成り立ちそうな p についての検証を進めた(1億までの初期値、またa, b が1万までの ap+b というパターンの初期値、さらにa, b が有理数の場合についてもサイクル予想の反例が見出せないことを確認した。 (2)F_2[t]上でのコラッツ予想のアナロジー(f(0)=0ならばtで割り、f(0)=1ならば(t+1)をかけて1を足し、tで割る、という操作を続けた場合、どんな多項式から出発しても、いつかは1になる。また、分母に0を代入して0にならない有理関数についても同様の操作を続けると必ずサイクルに落ち着く)が成り立つことがすぐにわかるが、2次の無理式でもモチビックゼータの視点から面白い現象を発見した。 (3)モチビックゼータの有理性について、これまでは圏のK環を係数としてのモチビックゼータを主に考えてきたが、 Conway の On Numbers and Games がゲームを用いた体の構成を行っていることに着目して、ゲームを係数とするモチビックゼータの研究に着手した。現在特に有限 Hackenbush が定めるゲーム(言い換えると基点付き連結2彩色グラフの圏のConway環、ここで彩色は辺が青と赤のどちらかに彩色されている)のモチビックゼータが、必ずしも有理的ではないが、代数的になることを証明した(出版準備中)。さらに基点付き連結3彩色グラフの圏の Conway 群の構成に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)コラッツ予想のモチビックゼータについて、サイクル予想(=モチビックゼータの有理性)が成り立ちそうなケースと成り立たないことがはっきりわかるケースとの境界線がよりはっきりしてきた。 (2)グラフのモチビックゼータの有理性を研究目標の一つのターゲットとしていたが、K環のかわりにConway 環を用いるというアイデアにより、有理性は必ずしも成り立たないこと、一方、常に代数的になることが証明された。 (3)これまでほとんど研究されてこなかった3人ゲームについて、Conway 群を定義するアイデアが生まれた。実現し、さらに環に拡張されれば、完全情報ゲームにおける新しい分野が生まれることになる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)奇数の2進数 p が2次の無理数であるとき、その定義方程式を x^2+ax+b として、aが偶数の場合、またb が4の倍数でない場合に LagariasのQ関数が有理的でないことがありうることが知られていた。一方、a が奇数で b が4の倍数の場合であっても、a, b の絶対値が大きい場合はLagarias Q関数が一般には有理的でないことの強い証拠を得た。この議論を精密化して、その場合には実際Q関数が有理的でない例が存在することの証明を与えたい。一方で、x^2±ax±b で a が1または3、bが4または8の場合には非常に多くの例全てでQ関数が有理的になることがわかっており、どこに境界線が引けるかを精密に決定していきたい。 (2)基点付き連結2彩色グラフの圏のConway環を係数として、モチビックゼータの代数性を証明したが、現状では一部Conway による数解釈を利用しており、十分満足が行く証明になっていない。全てをグラフの言葉で記述したモチビックゼータの定義を用いての有理性・代数性の証明を与えたい。 (3)2人零和ゲームのConway 環の定義の鍵は、ゼロゲームの定義である。「後手有利」な有限決定ゲームにおいて、後手勝ちの局面をゼロゲームとしてゼロとみなすことによってゲーム全体が全順序を持ち、よって数を定めることになる。そのアイデアを3人ゲームに拡張すると、「後手有利」な3人ゲームがゼロゲームであるとは、どの二人が手を組んで2人ゲームとした場合も、それが2人ゲームとしてゼロゲームとなること、と定義する。これまでに調べたいくつかの例ではこのアイデアで3人ゲームのモチビックゼータがうまく定義できそうであり、その研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナにより、研究集会への参加が難しくなり、旅費に予定していた予算が余ってしまった。 さらに今年はロシアで開催される予定であった国際数学者会議に出席する予定であったが、それも参加できそうにないので、普通に研究を進めれば、予算が大幅に余ることが予想される。 もしコロナがおさまれば大規模な研究集会を開くことが考えられるが、そうならなかった場合、コンピューターなどの購入により研究環境を整備するなどの方策を考える必要がある。
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