研究課題/領域番号 |
20K03515
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
権 寧魯 九州大学, 数理学研究院, 准教授 (30302508)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 跡公式の単純化 / 跡公式の多重差分 / 純四次体 / セルバーグゼータ関数 / 素測地線型定理 |
研究実績の概要 |
Kを代数体とし、その整数環の元を成分とする2次の特殊線形群Γを考える。代数体Kの無限素点の個数に応じて、この群Γは上半平面と3次元上半空間いくつかの直積に不連続に作用する。Kから決まるこの不連続群Γに対する(適切な)セルバーグ型ゼータ関数を定義しその解析的性質や数論的応用を研究することは、保型形式の整数論にとって重要な問題と考えられるが、不連続群が作用する対称空間の階数が1であるような代数体である有理数体や虚二次体以外ではほとんど研究されていなかった。対称空間の階数が2である:Kが実二次体(Y. Gon, J, Number Theory 2015, Y. Gon, Pub. Mat. 2018)、Kが純三次体の場合は既に筆者により研究されているので、今年度は対称空間の階数が3である:Kが純四次体の場合の不連続群Γに対するセルバーグ型ゼータ関数への応用を念頭に、非自明なウェイトの組を持つセルバーグ跡公式と跡公式の“重さに関する差分”(いくつか組み合わせたもの)を用いて、跡公式の単純化を研究した。得られた跡公式の“多重”差分を用いて、一変数のセルバーグ型ゼータ関数を定義し、このゼータ関数の全平面への有理型解析接続、零点と極の位置と位数の決定、関数等式を証明した。関数等式には、通常のガンマ関数、2重ガンマ関数に加えて、アイゼンスタイン級数の定数項からの寄与である“純四次体の基本単数系のゼータ関数”が現れる。既に扱った実二次体(ヒルベルトモジュラー曲面)の時と同様に、素測地線型定理や、ラプラシアンの固有値に対するワイル型の漸近公式も証明される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モジュラー群に対するセルバーグゼータ関数を一般の代数体の整数環上のPSL(2)に拡張することは研究目的のひとつであった。現在までに、 (i)総虚な代数体の場合は跡公式の“多重差分”の方法では扱えないこと。 (ii)実二次体、純三次体に加えて、純四次体の場合にも同様な多重差分の方法でセルバーグ型ゼータ関数が定義できること。 以上のことが分かったので、研究計画はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
Sp(2,R)やSU(2,2)などの階数2の群に対して,「擬尖点形式」を具体的に構成する。方法としては、 (i)ラプラシアンなどの不変微分作用素から定まる「Kタイプ付き“熱核”の交代和」を用いて構成する。 (ii)“特異点を持った”一般化Whittaker関数の線形結合から構成する。 構成された「擬尖点形式」に対して,放物共役類の寄与であるユニポテント軌道積分,重み付き軌道積分,アイゼンシュタイン級数の寄与を計算する.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、国内外の研究打ち合わせのための出張が全てキャンセルになり、次年度に持ち越しとなった。 次年度に改めてスケジュールを調整し、研究討論・打ち合わせを行うための旅費に使用する。
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