研究課題/領域番号 |
20K03519
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田中 孝明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (60306850)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 代数的独立性 / 無限積 / Mahler関数 / 非対称性 / 超越数 |
研究実績の概要 |
有理数係数の多項式で表される関係式で結び付けられない多数の複素数を明示的な形で得ることは容易ではない。そのような複素数たちは代数的独立である、と言われ、それらの各々は超越数である。本研究は代数的独立な超越数の実例を一つの関数を用いて最も効率良く構成することを目的とする。具体的には、微分完全代数的独立性を有する1変数関数の構成を端緒として、その高次元化である偏微分完全代数的独立性を有する多変数関数を構成することが本研究課題の目的である。偏微分完全代数的独立性とは、代数的数を成分とするすべての点における値および、そのような点における任意の階数の偏微分係数をすべて併せても代数的独立となる、という多変数関数としての著しい性質である。 多変数関数が偏微分完全代数的独立性をもつためには、各変数に関して非対称であるのみならず、それを遥かに凌ぐ著しい非対称性をもつ必要がある。本研究における戦略は、基盤となる1変数関数として「十分に異なる」複数の微分完全代数的独立性を有する関数を準備し、それらに相異なる変数を割り当てたものを合成する形で、目的の偏微分完全代数的独立性を有する多変数関数を構成するというものであった。このように十分に異なり、かつ、なるべく簡単な構造である1変数関数として複数の無限積型Mahler関数を準備した。さらに、それらを結び付けて多変数関数とし、偏微分完全代数的独立性をもつようにするための新たな関数が必要であった。この要請を満たす多変数Mahler関数として、多重化されたLambert級数型のMahler関数を採用した。その結果、任意の個数の変数を持つ複素整関数であって、偏微分完全代数的独立性を有するものが構成できた。この結果をまとめた論文を学術誌に投稿し現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
補助事業期間の初年度に空隙級数を用いて、微分完全代数的独立性をもつ冪級数の実例を得た。空隙級数とは、冪級数であって0でない係数をもつ項の次数に大きな跳びがあるものである。研究代表者は、0でない係数をもつ項の次数が簡単な構造の線形回帰数列を成す場合に、微分完全代数的独立性を有する空隙級数の構成に成功した。これを端緒とし、2年度目にあたる2021年度には任意個の変数の場合に、偏微分完全代数的独立性をもつ複素整関数を構成するに至った。即ち、(偏)微分完全代数的独立性の任意の次元への高次元化を達成した。 4年間の補助事業期間の前半で、本研究の目的である「完全代数的独立性の拡張」と「完全代数的独立性の高次元化」の後者が達成された。その過程において、研究代表者の先行結果が拡張されるとともに、それを新たな方面に応用できることが明らかになった。これにより、研究代表者の研究室の若手研究員および大学院生を含む、他の研究者の研究の発展ももたらされた。
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今後の研究の推進方策 |
補助事業期間の後半2年間は「完全代数的独立性の拡張」について、以下の2つの方向で研究を進める。 一つは、代数的独立な超越数の実例を(単独の関数ではなく)複数の関数を用いて最も効率良く構成することである。そのために、異なる初期条件を有する複数の線形回帰数列により生成されるLambert級数型のMahler関数を考える。それら複数の関数の、収束円内にある0以外のすべての代数的数における値がことごとく代数的独立となるという、完全代数的独立性を証明する。具体的には、Lambert級数を生成する複数の線形回帰数列がどの程度異なれば、複数の関数として完全代数的独立性を有するかという必要十分条件の記述を目指す。 もう一つは、微分完全代数的独立性を有する複素整関数を、前半2年間で扱ったものとは全く異なる関数を用いて構成することである。具体的には、指数関数の空隙化により微分完全代数的独立性をもつ複素整関数を構成する。即ち、指数関数は微分完全代数的独立性をもたない超越整関数の最も簡単な例であるが、それに空隙級数の性質を取り入れるということである。また「現在までの進捗状況」欄で述べた、微分完全代数的独立性をもつ空隙級数が自然境界を有しているのに対し、その存在領域を拡張する研究であるともいえる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度にあたる2020年度に、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延に伴い海外渡航および国内出張の計画をすべて中止したことが直接の原因である。その結果として生じた初年度の未使用額分は2021年度には使用せず、2022年度に繰り越す形となった。2021年度の交付額相当分は物品費として、オンラインでの共同研究の効率を上げるために使用した。初年度の未使用額分を繰り越した理由は、新型コロナウイルス感染症の状況が改善した場合に、海外に渡航して国際共同研究を実施できる可能性を残すためである。 一方で、現下の国際情勢など不確定要素が多い状況に鑑み、物品費と旅費のいずれを主として使用する場合でも、最も有効に使用できるよう計画中である。
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