研究課題/領域番号 |
20K03523
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
鎌野 健 大阪工業大学, ロボティクス&デザイン工学部, 准教授 (50409611)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多重ゼータ値 |
研究実績の概要 |
多重ゼータ値に関する古典的な大野関係式は,大野和と呼ばれる多重ゼータ値の適当な和に対して,あるインデックスとその双対インデックスの大野和が等しいという表示と見ることができる.近年大野和を補間する複素関数として大野関数が考案された.これは適当な多重無限和により定義される.本研究では小野塚友一氏(九州大学マス・フォア・インダストリ研究所)との共同研究により,大野関数に関して以下のような解析的な性質を明らかにすることができた. (1) 大野関数の全複素平面への解析接続は知られていたが,詳細な絶対収束領域を求めた.(2) 大野関数は多重無限和で定義されており,積分表示は知られていなかった.この関数を本研究課題で中心的な役割を果たす積分表示に具体的に書き下した.(3) この積分表示と積分の変数変換を駆使することにより,大野関係式の補間の別証明を与えた.(4) 大野関数の上記の積分表示とは異なる新しい積分表示を導いた. 積分のシャッフル積の考えを用いれば,(2)で書き下した積分表示が大野和を補間することは比較的すぐにわかる.しかし無限和で定義される大野関数がこの積分で表示されるものと一致することは非自明なもので重要な結果である.また積分表示を用いた大野和の補間の証明には, Ulanskii氏による巧妙な変数変換を応用したものである.また証明の過程でUlanskii氏の変数変換を改善し変数変換自体も若干単純なものにする工夫も行なった.本結果は学術論文にまとめ,学術誌Mathematica Scandinavica への掲載が決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,古典的な多重ゼータ値で代表されるような積分範囲が1次元的な場合の多重ゼータ値の関係式を求めることを目的としていた.多重ゼータ値の理論で重要な関係式である大野関係式の補間を与える関数である大野関数について小野塚友一氏(九州大学マス・フォア・インダストリ研究所)との共同研究が進展し,大野関数の解析的性質について調べることができた.大野関数の積分表示はこれまで知られていなかったが今回本研究により積分表示を与えることができた.この積分表示は1次元的なもので本研究において扱う予定のものの1つである.この積分の変数変換を用いて大野関係式を補間する関係式の別証明を与えた.これは先行研究の Ulanskii氏による巧妙な変数変換を拡張することで得られる.本研究では関数化された大野和を考えたことで大野関係式の構造とそれが成り立つ理由もより明らかになったと考える.またこの結果は変数変換という操作のみで関係式が導けるという意味で意義あるものである.この結果は本研究課題で目標としていた積分表示を中心に据えた多重ゼータ値への応用の1つであり,まずは予定通りの十分な研究結果が得られたと言える.大野関数は,調べるべき複素関数としての性質が多く残されており,今後の課題となる.また積分表示が知られている多重ゼータ値の類似物に対しても,現在研究を進めている最中である. 以上を総合して,(2)おおむね順調に進展している とした.
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今後の研究の推進方策 |
大野関数はまだその性質が十分明らかになったとはいえないため,特に解析的な方面の研究を進めていく予定である.今回与えた積分表示がそれらの性質とどのような関係にあるかを解明する.また大野関数の代数的な研究として,二重大野関係式と呼ばれるさらに深い関係式が与えられるなど近年研究が進展している.これらの結果の解析的な手法による解釈も考える. 大野関数と並行して,その他のゼータ値にも積分を用いた解析的な手法を用いて研究していく.扱う対象物としては多重ゼータ値と等号つき多重ゼータ値を補間するt補間多重ゼータ値や荒川-金子ゼータ関数などである.これらのうち,どのようなタイプならうまくいくのかを見極め,一般的な理論を作る.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症対応により,全ての研究集会が中止またはオンラインに変更になった.そのため旅費としての利用がなくなった. 次年度は,繰越額の一部は対面による研究集会も開催されることを見込んで旅費として利用する.また残りはオンラインでの研究集会参加のためウェブ会議システムの利用料に充てる.
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