研究課題/領域番号 |
20K03530
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
桂 利行 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特任教授 (40108444)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 準楕円曲面 / アーベル曲面 / K3曲面 / Coble曲面 / ヤコビ多様体 / Richelot isogeny / 自己同型群 / Enriques曲面 |
研究実績の概要 |
標数が2の場合に、小平次元1の準楕円曲面Xの多重標準束システム|mK_X|についてはmが14以上の時に準楕円曲面の構造を与え、m=14が最良の下限であることを示した論文が斎藤夏雄との共著として出版された。また、標数が2ではない場合に、種数3の代数曲線Cのヤコビ多様体のRichelot isogenyのターゲットが分解する必要十分条件は、Cが位数2のlong自己同型写像を持つことであることを示した。これを用いて完全分解するのはCがHowe曲線の場合に限ること、またCが種数3の超楕円曲線であるときはその分解が楕円曲線と種数2の代数曲線のヤコビ多様体の直積になること、などを示し発表した。標数0ではBarthによって知られていた9個のカスプを持つK3曲面が位数3の自己同型を持つアーベル曲面を3次被覆をもつという結果を標数3以外の正標数において示した論文がM.Schuettとの共著として出版された。この論文ではK3曲面が超特異の場合には、Artin不変量が1であるか、もし2であれば標数は3を法として-1になる場合しかないことも示した。 金銅誠之との共同研究として標数2における自己同型群が有限になるCoble曲面の分類を行い、nordal曲線のconfigurationによって7種類に、境界因子の個数を考慮すると9種類に分類できることを示して論文を作成し投稿した。Enriques曲面の場合にはPicard格子が重要な役割を演じたが、Coble曲面の場合にはCoble-Mukai格子を用いるのが特徴であり、その中にあるconductrixの分類を行い、それを用いてCoble曲面の分類を行った。分類に表れるCoble曲面の例が存在すること、有限自己同型群の構造、境界の既約成分の数、モジュライの次元も決定した。2次コンプレックスのline geometryについてもいくつかの結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Covid-19のため海外出張をすることがむつかしかったので海外研究協力者のAmsterdam大学教授G. van der GeerやHannover大学教授M. Schuettとの対面での討論ができず、共同研究が滞っている。しかし、国内の研究者との共同研究などが当初の計画以上に順調に進み、論文が3本出版された。また、金銅誠之名古屋大学教授との新たな共同研究も完成し、50ページを超える論文にまとめて投稿することができた。そのため、総合的に見て「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
金銅誠之名古屋大学教授との共同研究として、2次コンプレックスに付随するline geometryを調べ、そこから得られる種数2の代数曲線、そのヤコビ多様体、ヤコビ多様体のinversionで割って得られるKummer曲面の関係を明らかにする。Kummer曲面はK3曲面であり、次元が最も小さい狭義のCalabi-Yau多様体である。ヤコビ多様体の自然な偏極を用いて得られるヤコビ多様体から3次元射影空間や5次元射影空間への写像の像と上記のKummer曲面の関係を調べる。これらは複素数体上の理論としては古典的であるが、標数2ではかなり様相が違っており、興味深い現象がすでにいくつかみつかっているので、全体像を解明することを目指す。 標数2のEnriques曲面の方程式の標準形を決定する問題については、Hannover大学のSchuettとの共同研究が進行中であるが、Covid-19のためにこの2年間中断していた。交流が可能になれば研究代表者がドイツを訪問するかあるいはSchuettを日本に招聘し詳細を検討し、現在できている草稿段階の論文を完全なものに仕上げて論文を完成させる。Amsterdam大学のvan der Geer教授との正標数の高次元Calabi-Yau多様体の構造解明の研究も対面の議論が可能な状態になれば再開したい。 Richelot isogenyのターゲットの分解問題については、現在は種数3の代数曲線までは満足できる構造解明ができているが、種数が高い場合や、種数が2の場合でも同種写像の次数が3のベキの場合は十分な結果が得られていないので、耐量子計算機暗号の観点からその構造の解明を試みたい。Richelot isogenyの研究については暗号の専門家である高島克幸早稲田大学教授にご協力をいただく。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請額の大部分は研究遂行のための旅費であったが、コロナウイルスの蔓延のため、特に海外の研究者との対面での共同研究が全くできなかったため海外出張費、海外からの招聘費を使用することができなかった。また、研究集会や国際会議もオンライン開催ばかりであったので、資料収集のための出張予算も使用する機会がなかった。以上のように、旅費関係の予算執行が全くできなかったので次年度使用額が生じた。2022年度はCovid-19の状況が改善することを期待しており、ドイツHannover大学のSchuett教授とはEnriques曲面について、オランダAmsterdam大学のvan der Geer教授とは高次元Calabi-Yau多様体についての共同研究が再開できることを見込んでいる。また、研究遂行のために効果の大きい対面での研究集会や国際会議への出席が可能になっていくことを期待している。
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