代数曲線のモジュライ空間およびその上の普遍族の(特異軌跡による)滑層分解を具体的に記述するため,線形商族の理論を推し進めた.まず,固定化部分群ポセットとモジュライ空間の滑層分解との幾何的ガロア対応の観点から滑層構造を局所記述するために,固定化部分群ポセットの具体的決定のアルゴリズムを与えた(平川氏との共同研究・投稿中). これは線形代数に依拠したアルゴリズムであり,計算機に実装して高速で計算可能である. また,このアルゴリズムとは別に,固定化部分群ポセットを,部分群ポセットの中の巡回部分群ポセットの極大元・極小元を使って具体的に決定するアルゴリズムを与えた.さらに,具体例への応用を行った.まず,対称性の高い代数曲線であるクライン曲線の,モジュライ空間のまわりでの普遍族の局所的な描写を行ったうえ,ホモロジー群への作用から作られるクライン曲線の商族を描写し,両者の特異軌跡が大きな違いをもつことを見出した(佐々木氏との共同研究・投稿中). また,上記研究での部分群ポセットの役割に触発されて,群の「高次構造」を導入し,高次ポセットを構成した.部分群積からなるこのポセットの分岐の様子から定まる準単体複体``分岐複体''を構成し(これは群の幾何的不変量),その幾何的性質を調べた. さらに,群作用幾何の立場からは,部分群ポセットの中の「2点」(2つの部分群)を結ぶパス(群論的パス)に対応して,商空間たちとその間の射のパスの考察を進め,この前段となるポセット・ブローダウンの結果を出版した.
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