研究課題/領域番号 |
20K03537
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
横山 俊一 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (90741413)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 計算機数論 / 代数的保型形式 / 耐量子計算機暗号 |
研究実績の概要 |
(1) 計算機数論,とくに代数的保型形式に関する研究に従事した.四元数環上の保型形式のトーラス周期の絶対値の2乗をとったものと保型$L$関数の特殊値との間に explicit な関係式が得られることがよく知られているが,これに対して定値四元数環上の代数的保型形式のトーラス周期の値そのものがどのように分布しているのかについて,大規模計算を用いた考察を行った.その結果,半整数ウェイトの正則保型形式の Fourier 級数(とその符号変化)との関連性を示し,distribution formula を定式化する予想を提唱,いくつかこれを保証する事例を与えた(京都大学の鈴木美裕氏,および金沢大学の若槻聡氏との共同研究).
(2) 耐量子計算機暗号における署名技術の一般化に対する高速化・効率化を行った.NIST PQC コンペティションにおいて最終ラウンドを通過した署名技術として Falcon があるが,その一般化のひとつである ModFalcon(module 格子を用いた代数的一般化)にはスクリプト実装(基本的な実装)のみが与えられていたため,これをC言語環境で高速化した.具体的には Toom-Cook 法ないし Radix FFT 法を用いた効率化を行い,さらに命令セット AVX 機構を導入して高速化を検討,比較と考察を行った(東京都立大の福原大毅氏・高橋雄人氏,および NTT 社会情報研究所の齋藤恆和氏・山村和輝氏との共同研究).なお本研究は NTT 社会情報研究所との共同研究として実施されたが,計算機実装に関する情報収集等の業務の一部を本研究課題として実施したため,本報告書に記載する次第である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も、計算機実装における多くの仮組み処理や高速化検討において Julia 言語を用いた貢献を実現することができた。とくに本年度の研究において、Julia 言語の特徴の一つである多重ディスパッチの効率的援用について深く検討できたことは特筆すべき事項であり、来年度に向けたさらなる高速化の基盤を構築することができたと考えている。 また外部共同研究事業の一部として、耐量子計算機署名の具体的な実装を公開するに至ったが、Julia 言語を主言語とした場合の利点や問題点についても多くの知見を得ることができた。来年度はこの分野にとどまらず、より広い枠組みでの数理科学・物理学の分野における Julia 言語の活用事例と今後の発展・普及を目的としたコンファレンスを開催することが決定しており、異分野間でのコミュニティ構築を本年度に拡大できたことは非常に重要であった。 以上の事柄から、3年目終了時点での進行状況としては概ね良好と判断し、引き続き具体的な実装(プロダクト開発)とその応用について取り組んでいく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
代数的保型形式に関する共同研究事業については、引き続き関連する数論的対象物を Julia 言語をはじめとする高速実装環境に実現する作業に取り組む。その後、並列化等の技術をうまく援用することで新しいデータを取得し、周期予想に関連した experimental な結果に繋げる研究を行いたいと考えている。 一方、暗号理論への応用事例としても、2022年度までとは異なる耐量子計算機暗号の署名技術の高速・効率化と性能評価について継続的に研究を進めていく予定である。具体的には、マスキング格子を援用した署名技術 Masking-Dilithium を中心として、Julia 言語との相性や高速化アルゴリズムの適用検討を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染拡大に伴う(主に国外の)出張規制により、支出ができなかったことが要因である。また、企業との共同研究においても予算が支出されたため、本年度の研究代表者の物品購入はここから支出したことも要因である。しかしながら、本年度の研究成果を基として、2023年度においては(海外研究渡航が引き続き困難な状況となりうることを踏まえて)計算機等の設備増強を予定していること、また Julia に関する国内コンファレンスを主催する予定もあるため、予算執行用途は増える見込みである。
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