令和5年度は、論文「Differentiability of the arithmetic volume function for pairs」について、レフェリーのコメントを参考にし、完成した理論として発表するために、内容を加筆補充した。この論文では、アデール的因子と基底条件の巨大な組の空間の上の数論的体積関数について、カルティエ素因子Y方向の微分可能性(Y巨大錐の内部にある場合)とY巨大錐の境界上でのY方向の片側微分可能性を一般に確立し、一般に巨大な組に対して、数論的正値交点数についての直交関係式を証明する。当初の研究目的の通り、数論的制限正値交点数の、Yに沿った重複度が0の境界上での連続性とY巨大でない組での連続性を示し、組の微分可能性について最も一般的な結果を得る。また、ブクソム・チェンの数論的ニュートン・オコンコフ凸体の切断体積と数論的制限正値交点数との関係を示す。本年度は、アラケロフインターシティーセミナーの開催が中止となり、大学の改組・改編のため研究時間を十分に確保するのが難しかった。今後さらに、この微分可能性の結果を代数多様体上の有理点の問題に応用すること、ユアン・ジャンの準射影的代数多様体上の数論的交叉理論との関係についても鋭意研究を進めていく。 本研究は、令和2年度新型コロナウイルス流行の影響の中、チェン氏と進めていたカヴェー・ホヴァンスキー理論の簡明な書き換えを完成し、森脇氏・川口氏とファルティングスの定理に関する書籍を執筆したところから始まった。令和3年度に、組の数論的体積関数のアデール的因子方向の連続性と微分可能性についての論文2本を出版した。組の数論的体積関数を考えると自然に境界が現れ、そこでは片側微分可能性しか成立しない。令和4年度はこの点について研究を進めた。
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