研究課題/領域番号 |
20K03558
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
石川 雅雄 岡山大学, 自然科学学域, 教授 (40243373)
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研究分担者 |
岡田 聡一 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (20224016)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 交代符号行列 / 平面分割 / Pfaffain / determinant / Hankel determinants / orthogonal polynomials / symmetric functions / combinatorics |
研究実績の概要 |
交代符号行列や平面分割の数え上げや母関数の計算には、いろいろな行列式やパフィアンが現れる。これらの行列式やパフィアンの評価は必ずしも容易ではないが Gessel-Xin の論文にあるように母関数を用いて Hankel 型の行列式に持ち込むことは、1つの有望な方法と思われる。 U. Tamm の論文 Some aspects of Hankel matrices in coding theory and combinatorics では、数え上げに現れる行列式を母関数を使って変形し、Hankel 行列式の評価に帰着させた。これらの Hankel 行列の成分の数列の母関数は、ある特別な形のガウス超幾何級数の商であり、その連分数展開を用いて評価を行った。Hankel 行列式は直交多項式と深い関係があり、Gessel-Xin は、そのような評価が可能な Hankel 行列式を発見的な方法で分類した。最近の私と Jiang Zeng 氏との共同研究で、そのパフィアン類似を考案して、その評価を Selberg 積分に帰着させる方法を考案した。この方法のアイデアは J. Luque と J. Thibon の論文にも源泉があるが、パフィアンをさらに一般化した hyperpfaffian にまで拡張され、hyperpfaffian の和公式によって証明を行った。また、q-類似の場合にも適用でき、いくつもの応用によって、これまでにない多くの等式が得られた。また、A, B, D 型のコクセター群に対応する Narayana 多項式や、カタラン数、モツキン数、シュレダー数等の多くの組合せ論的数から得られる hyperpfaffian や Pfaffian についの新しい式をセルバーグ積分から導いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Hankel 型の hyperpfaffian に関する論文は revise され、ほぼ完成した。現在、投稿の為に共著者の Jiang Zeng 氏と相談中である。今年度の後期にリヨン大学に出張し、その続編について共同研究を行うことにしている。また、今年度は和歌山大学の田川裕之氏と skew shape の hook 長公式について、何度か共同研究を行った。特に、鈴木武史氏によって提起された Cylindric Hook Formula の予想について、左辺をシューア多項式の和で表す方法や右辺を表す方法について Morales-Pak-Panova の論文を検討したり、Hillman-Grassl 対応について議論した。コロナ感染症による移動制限などの制約条件も多かったが、最近は出張も可能になり、少しずつ進展し始めた。Hankel 型の hyperpfaffian については、続編も準備しているが、その組合せ論的な数え上げ問題への応用が、今のところないので、その方面の研究が期待される。そのようないくつかの問題も残っているが、Hankel 型の hyperpfaffian と Selberg 積分についての論文を完成させ、複雑な計算を確認しまとめることが出来たのでおむね順調に進展しているとした。その結果は、かなり長くなったので投稿先に苦労している。前半はコロナのために出張が国内を含めて難しかったので、コンピュータなどの研究に必要な機材を買うことが多くなった。Maple 等の数式処理ソフトの利用が証明や結果のチェックなどに大いに役立った。今年の後半にはフランスのリヨン大学などを訪れ、共同研究者やその他の研究者と共同研究を進める予定でいる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、今回 revise した論文では、まだ未解決の予想が残っている。それは Gessel-Xin がb分類したガウス超幾何級数の商で書かれる母関数を持つ 5 つの場合を Pfaffian の場合に予想したものである。証明が出来ないでいる理由は、この数列をモーメント列として持つ直交多項式の重み関数の計算が難しいからであった。最近、この直交多項式が associate Jacobi polynomials であることがわかり、Wimp や Ismail-Masson の結果を応用することが考えられる。この手法について共同研究者の Zeng 氏や Eisenkolbl 氏と共同研究を行っている。また、最近、Fon-Der-Flaass や Striker-Williams 等の論文から交代符号行列全体のなす集合に分配束の構造を入れ、束論的な研究が始まっている。これにより gyration 等の組合せ論的な操作が Promotion や rowmotion 等の束論的な意味を持つ。それは Homomesy 等とも関連し、Cantinia-Sportiello による Razumov-Stroganov 予想の解決にも gyration が大きな役割を果たしたことが知られている。いろいろな対称性を考慮した交代符号行列についても束論的な構造を考える問題が考えられ、それぞれの gyration 等を分配束の toggle と compatible になるように定義することは面白い問題と考えられる。その他にも、Hankel 型の hyperpfaffian に関しては Jack 関数などの対称関数を使って基本対称式を展開することで Selberg 積分の値を計算することができ、もっと広い hyperpfaffian の評価が可能になると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
フランスのリヨン大学を訪問し、Jiang Zeng 氏と共同研究を行う予定であったが、コロナ感染症の為に西ヨーロッパに渡航中止勧告が出ていて、出張が許可されなかった。その他にもアメリカ合衆国や国内での研究集会に参加したが、すべて Zoom であったために旅費が使えなかった。出張が可能になったのは、つい最近のことでクラスター代数の講演会に参加することができた。2022 年は、渡航規制が緩和しつつあるので感染予防に留意しつつ、研究推進のために繰り越した研究費を使いたい。
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