研究課題/領域番号 |
20K03560
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所 |
研究代表者 |
若山 正人 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, メディア情報研究部, 数学研究プリンシパル (40201149)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非可換調和振動子 / 数論 / 量子ラビ模型 / 表現論 / アペリ数 / スペクトルゼータ / 量子光学 |
研究実績の概要 |
量子誤り訂正符号への応用(非可換スタビライザ符号の構築)を念頭に、非対称版を含めた量子ラビ模型において成功したトロッター・加藤の公式を用いた熱核の導出を(Dicke模型、Spin-boson模型、近藤模型等へと)一般化すること、換言すれば、普遍的方法を提供することを目指した研究を進めている。さらにまた、物理学者にとっての懸案の問題、「固有値の縮退には、かならず隠れた対称性があるはずだ」という信念に対して、予想という形ではあるもののきわめて具体的に解答を与えることができた(Degeneracy and hidden symmetry - an asymmetric quantum Rabi model with an integer bias- arXiv:2106.08916 (2021)、学術雑誌に投稿中)。実際、量子ラビ模型とは異なり、非対称量子ラビ模型のハミルトニアンは対称性を有しない。しかしながら、それを定めるパラメータが整数値のときには、スペクトルの縮退がみられることが知られている。そのため、こうした量子光学の理論模型に関心をもつ物理学者にあっては、隠れた対称性の探索がきわめて重要な問題であった。まず、Reyes-Bustosto と代表者は、Daniel Braak とともに、隠れた対称性の数学的探索を行なった(J. Phys. A: Math. Theor. 54 (2021))が、その後、両者は上述の予想を提示した(上記のarXiv:2106.08916)ほか、その予想の裏付けにもなる諸結果を得、さらにはそこに、非対称量子ラビ模型のスペクトルとディオファントス幾何学との類似性・関連性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子相互作用模型の最も基礎的で(実験測定をも予測した)理論モデルである量子ラビ模型の被覆模型であると考えられる非可換調和振動子のスペクトルについて研究を進めた。そのスペクトルゼータ関数およびその特殊値は豊富な数学的構造を擁している。この特殊値公式に現れる高次の剰余項を理解するための手立てとなる計算結果が得られた。最低次の剰余項から現れるアペリ型数列が深い数論的構造を持っていたことから、高次の剰余項から生じるであろう高次のアペリ型数列にも同様のことが期待される。じっさい、このような期待をもって、概正則保型形式の研究などの Fuchs 群に関する不変性の観点からの研究を進めたほか、概要にも述べたようなきわめて興味深い予想も得た。
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今後の研究の推進方策 |
先にも述べた、非対象量子ラビモデルのスペクトル縮退と隠れた対称性の具体的関係を記述する予想の解決に向かいたい。そのために、ディオファンタス幾何の研究手法、とくに数論力学系の手法などの調査を行い、その手法を展開する道筋をつけたい。一方で、前述とは異なるアプローチを考えている。じっさい、非対象量子ラビモデルの被覆モデルとなるバイアス付きの非可換調和振動子を定義することができたことにより、しかも後者のハミルトニアンは対称性を失わずもっていることから、これらの事実を利用した予想へのアプローチを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19 が理由で、海外からの招聘と、代表者自身の渡欧(フランスでの国際研究会議)等に出席できなかったため。
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