最終年度には、非可換調和振動子(NCHO)に適切な非対称項を定め、ホイン微分方程式の特異点合流で、それが非対称量子ラビ模型(AQRM)のホイン描像に移るような理論の構築を行った。その際に現れるモノドロミー問題を扱い、quais-exact 解(多項式解)の存在や構造を調べた。かかる研究を行なったのは主に以下の2つの動機からである。1) NCHOのスペクトルゼータ関数の特殊値(s=2の場合はリーマンゼータ関数同様、保型形式との具体的対応がすでに研究代表者と木本一史により示されている)s=4の場合には、保型形式ではなくEichler形式(の自然だが僅かな拡張)を要した。そのために、対応する cohomology の議論も行った。同時に、アペリ数の自然な拡張も見出され、それが満たす深い合同性などの存在も導いた。これらは、NCHOのスペクトルの背後に豊な数論構造が存在することを示しており、それらを論文として出版した。2) ホイン描像を通じて、NCHOがQRMの被覆モデルであることは、研究代表者により既に2015年の論文で示されていた。これを、理論・実験においても重要なAQRMに拡張し、さらに、AQRMのスペクトルの背後に存在するであろう数論構造を発見したいと考えたからである。このような目標の下、研究年度内にQRMの熱核の解析的公式を導き、そのスペクトルゼータ関数の解析接続の周回積分を用いた証明を得た。また、AQRMの縮退についての理論を、木本及び Cid Reyes-Bustos と行ったが、そこに潜む隠れた対称性についてもおおよそ明らかにした。おおよそというのは、一部、予想の形にとどまっているからである。なお、それは超楕円曲線・曲面に深く関わる新しい問題を生んでいる。この予想が正しいとすると、物理学において関心が深いスペクトル構造について、極めて興味深い結果が導かれることとなる。
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