研究実績の概要 |
本研究の主要課題は, 「1. トーリック型の巡回型Weierstrass半群の特徴付け」と「2. Castelnuovo(トーリック)多様体と多面体の関係性の究明」である. 課題1に関しては、投稿中だった論文がJ. Pure Appl. Algebraに掲載された. 本論文ではトーリック曲面上の曲線の総分岐点のWeierstrass半群が巡回型になるための必要十分条件を, 4,6,8,10次の場合について与えた. 課題2に関しては, 昨年度の論文で示した「偏極多様体(X,L)がCastelnuovo多様体であることと対応する凸多面体P(L)の体積が下限に等しいことの同値性」の拡張を考えた. 具体的には, h^0(L+K_X)≧1(つまり, P(L)が内点を持つ場合)に限定されていた結果を, h^0(L+K_X)=0にまで拡張することを目的としていたが, これについては年度途中で土谷氏(東京大学)が解決したとの連絡があったため, この問題に関する取り組みは終了した. 一方で, 一連の研究に関して下限体積の発見者である日比氏(大阪大学)から連絡があり, 今後は多面体論のグループと共同で研究を進めていくことになった. また, 土谷氏が論文中で用いたHofscheier, Katthan, Nillによるhベクトルに関する不等式を応用して, 次のような結果が得られた. 断面種数の拡張として定義された第i断面種数は上限の公式が見つかっていたが, 下限については基本的なものがいくつか知られているだけで, これまで目立った結果が存在しなかった. 今年度は上記の3氏による不等式を第i断面種数の公式に適用することで, 新たな下限公式が得られた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はWeierstrass半群に関する論文がJ. Pure Appl. Algebraに掲載された. トーリック多様体と凸多面体の研究においても「研究実績の概要」で書いたように進展があった. 後者に関しては, 予定していた課題が土谷氏により解決されたが, それをきっかけとして日比氏の研究グループとの接点が生まれ, 共同研究の開始につながった. また, 土谷氏の論文を参考に第i断面種数の下限公式を発見することができた. この結果は現在論文にまとめるとともに, 日本数学会での発表に向けて準備中である. このように, 当初の計画とは異なる状況になりながらもそれを起点に新しい研究が生まれた点を考慮すれば, 全体として研究は順調に進展していると言える. さらに, 2015年にAlgebra Discrete Math. で発表した非特異3次元凸多面体の下限体積についても新しい展開があった. 査読者から, この論文で発見した下限体積の公式をhベクトルの式に直すとhベクトルの交代和の式になるという指摘があったことを思い返し, 交代和に関して類似の式をいくつか考えていく中で, 高次元に対しても適用できそうなものを発見した. こうした次の研究に向けてのアイデアも生まれており, 本研究は今後も新しい展開が期待できる.
|
今後の研究の推進方策 |
まず次年度は, 第i断面種数の下限公式に関する論文の執筆を優先的に進める. 一方, 「研究実績の概要」にも書いた通り, トーリック多様体と凸多面体の関係について日比氏のグループと共同研究を進めることになった. 土谷氏は論文の中で体積が下限に一致する凸多面体をCastelnuovo多面体と名付けた. 筆者と土谷氏の結果から, 代数幾何学的にはこれがCastelnuovo多様体に一致するので, Castelnuovo多面体の分類という課題が大きな意味を持つことになった. したがって, 多面体論グループは格子点の数え上げの視点から, 筆者は偏極多様体の断面種数の視点からこの問題に取り組むことになっている. さらに, 新たな研究としてhベクトルの交代和の研究を始める. 2015年に発表した非特異3次元凸多面体の下限体積がhベクトルの交代和の式になっていることから, 高次元でも同様の結果が得られる可能性がある. 3次元の場合は次元が低いことによる扱いやすさを最大限に活かした証明だったが, 高次元になるとそうした単純な方針は通用しなくなると思われる. そのため, まずは3次元の場合の証明を振り返り, 高次元でも通用しそうな部分とそうでない部分を絞り込み, 後者については何らかの代替法を考えなければならない. 残り1年間でどこまで進められるかわからないが, 4次元の場合について結果を出すことを当面の目標とする.
|