研究課題/領域番号 |
20K03569
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
村瀬 篤 京都産業大学, 理学部, 教授 (40157772)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | テータリフト / 保型形式 / 保型L関数 |
研究実績の概要 |
テータリフトの研究の手法として、表現論的な方法(強力ではあるが、精密な量的結果を得るのが難しい)と、古典的な方法(精密な量的結果を得ることができるが、しばしば一般性を欠く)がある。本研究では、両者の方法を統合して、代数群をアデール化し、その上で保型形式を考察することにより、精密な量的結果を得ることを目指している。 2023年度は、四元数2次ユニタリ群上の保型形式から別の四元数2次ユニタリ群上の保型形式を構成するテータリフト(荒川リフト)について、そのアデール的構成を用いて、Eichlerの可換公式を証明した。これによって、荒川リフトのfunctorialityを示すことができた。この結果は、以前の筆者と成田氏の共同研究におけるfunctorialityとは、用いる保型L関数が異なっており、その意味で新奇性がある。また、荒川リフトにおける正則性の伝播(正則な保型形式のテータリフトによる像が再び正則であること)の新しい証明を与えた。これは、各群上の球関数がテータリフトによってどのようにふるまうかを具体的に記述するもので、過去の研究では知られていない手法である。さらに、荒川リフトとその随伴写像の合成について研究を行い、ヘッケ固有関数がその定数倍に移ることを証明した。これによって、荒川リフトの像と保型L関数の特殊値の関係についての新しい知見を得ることができた。本研究の手法は、他のテータリフトにおいても適用することが期待できる。なお、この研究は早稲田大学の成田宏秋氏との共同研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初の目的は、「ヤコビ保型形式の分岐則の研究」であったが、研究の過程で、多変数保型形式の理論における新しい手法を見出した。それを用いて、これまで研究結果がほとんどなかったテータリフトの像と保型L関数の特殊値に関する新しい知見を得ることができた。ヤコビ保型形式の分岐則については、いまだ模索中であるが、多変数保型形式の理論への寄与という、より大きな視点からは、本研究は順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の研究計画を変更し、2023年度に見出した新しい手法を用いて、荒川リフトとは異なる場合にテータリフトの像と保型L関数の特殊値の関係について研究を進める計画である。具体的には、楕円モジュラー形式からPicard保型形式へのテータリフト(Kudlaリフト)について、その随伴写像との合成の研究を行う。当初の目的である「ヤコビ保型形式の分岐則の研究」については、共同研究者との新たな研究体制を再構築することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は、新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で、参加を予定していた国際学会が中止になったり、研究会がオンラインになるなど、国内旅費、国外旅費ともに使う機会がなかったため、次年度使用額が生じた。今年度は、健康面の問題で海外出張は困難であるが、国内の研究集会等が元に戻りつつあるので、国内の研究集会を中心に参加する予定である。
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