研究課題/領域番号 |
20K03577
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
川村 一宏 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40204771)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 安定化次数 / K-安定性 / AF環 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続いて(非可換)C^*環の(連結)安定化次数の評価を行い、以下の結果を得た。 1) バナッハ環に値を取る連続関数環の連結安定化次数および一般安定化次数の計算を、ホモトピー論の古典的な結果を援用することにより実行した。前年度に得ていたコンパクト距離空間を底空間とする連続関数環に対する評価を、コンパクトハウスドルフ空間を底空間とするバナッハ環に拡張した。これらの安定化次数は底空間の次元によって決まる上限を持つ。本研究では(連結)安定化次数がこの上限を達成する十分条件をいくつか与えた。その応用として、球面について得られていたNicaの結果をホモロジー球面に拡張し、またトーラスに関するVaidynathanの計算を位相幾何学的に見通しの良いものとした。 2)Seth-Vaidyanathanは、任意のAF環(有限次元C^*環の帰納極限として表されるC^*環)に対して、そのK-安定性は有理K-安定性と同値であることを示した。本研究では、0以上の整数kに対して有理的k-連結安定化次数の概念を導入して、AF環に対しては有理的安定化次数と安定化次数は本質的に同じ値を取ることを示し(正確にはkが偶数であるときと奇数であるときで場合分けが必要である)、彼らの結果を精密化した。 3)AF環の同型類は順序付きK_0群によって決定されるというEliottの古典的定理は、C^*環の分類理論の雛型を提供しているが、同様の結果をAT環(単位円周上の連続関数環と行列環のテンソル積の帰納極限として現れるC^*環)で得ることはできないことが知られている。主な理由は円周上の行列環の間の準同型の構造が十分明確でないことによる。ここではpseudo-solenoidと呼ばれる特別なコンパクト距離空間上の行列環(ごく特殊なAT環である)の同型類はK_1群によって分類できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に比べて非可換C^*環についての理解は進んだと思う。特に(可換)トポロジーで得られていた結果の類似を、行列環という単純ながら非可換なC^*環で得られたことは今後の研究の進展のヒントとなると思う。しかしながら取り扱うことのできたC^*環のクラスはいまだにごく小さいという研究上の弱点をいまだ克服できていない。この点がやや遅れていると判断する理由である。
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今後の研究の推進方策 |
位相力学系から定まるC^*環に考察の対象を拡げて(連結)安定化次数の計算を行う。特に一般化射影極限のシフト写像が決める力学系およびpseudo-circle上の極小力学系の定めるC^*環の構造および安定化次数の精密な評価を目標とする。オンラインでの研究集会が増えてきたことを積極的に生かして、海外特にカナダ・インド・イギリスの研究者との研究交流を行うことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大により引き起こされた行動制限が継続し、開催を予定していた研究集会及び海外出張などがすべて中止されたため、予定されていた予算が支出されなかった。次年度は状況を見ながら研究出張を再開し、また研究集会を開催することを検討している。
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