研究課題/領域番号 |
20K03579
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
玉木 大 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (10252058)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | cotorsion pair / model category / algebraic K-theory |
研究実績の概要 |
本研究の目的は, 通常のチェイン複体を用いたホモロジー代数を, 有限次元 Hopf 代数 H 上の加群を用いたものに拡張することである。単純ではない Hopf 代数上の加群の圏がチェイン複体の圏と類似していることは, Khovanov による発見であるが, 本研究では, 特に (左) H-加群代数やその多対象化である H-加群圏上の加群の圏の構造を調べることを目的としている。 H-加群圏は, 通常のホモロジー代数での dg category に対応するものであり, dg category の場合, その上の加群の圏を用いて, Hochschild ホモロジー, 巡回ホモロジー, そして代数的K理論などの不変量が定義される。それらの H-加群圏への拡張は, 2020年度, 2021年度の研究により, cotorsion pair と それから構成される Waldhausen category を用いて得られており, 2022年度は, それらの不変量の基本的性質の研究を行なった。 dg category の代数的K理論の基本的性質は, Thomason と Trobaugh による1990年の論文で, チェイン複体の圏の作用を持つ biWaldhausen category の性質として得られているが, そこでは cylinder functor の存在が仮定されており, その手法は本研究に用いることができない。そこで Thomason と Trobaugh の用いたチェイン複体の圏の作用を H-加群の圏の作用に一般化し, 更に cylinder functor を用いない Schlichting の手法と組合せることにより, H-加群圏の代数的K理論の導来同値不変性を証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時の研究計画調書では, 5つの目標が挙げられ, その中で目標1は4つの項目, 目標2は3つの項目, 目標3は2つの項目, 目標4は2つの項目, そして目標5は1つの項目から成る。 目標1の4つの項目の内, 最初の3つまでは2021年度までに終了している。残る4つ目の項目は, 構成された代数的K理論の性質を調べることであり, 2022年度は導来同値不変性に取り組んだ。しかしながら, 代数的K理論の性質には, 他にも重要なものがあり, それらも調べる必要がある。研究計画調書では, 具体的な内容は設定されていなかったが, 導来同値不変性だけでは目標1の4つ目の項目が達成されたとは言えない。 目標2については, 2021年度までの研究で終了している。目標3はトレース写像に関することであるが, その1つ目の項目であるトレース写像の構成は, 2021年度に終了している。目標3の2つ目の項目は, そのトレース写像の性質を調べることであるが, その具体的な内容については, 研究計画調書には記載されていなかったので, その具体的内容を設定する必要があった。代数的K理論上のトレース写像に関する最も重要な結果の一つは, Dundas-Goodwillie-McCarthy の定理であり, その類似を証明することを目標にすることにしたが, その証明はまだ得られていない。 目標5は, 加群代数を余加群代数に変えた類似を研究することであり, 目標1に対応する内容は, 2021年度に得られている。しかしながら, 論文としてまとめるためには, 具体的例の考察が不足している。 このように, 研究計画書で具体的な目標が設定されていないところに目標を設定したが, その目標がまだ研究途上であることから, やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の研究計画書で挙げた目標の内, まだ手を付けていないのが目標4である。2023年度は, まずこの研究を行なう。具体的には, まず2022年度までに得られた H-加群圏の巡回ホモロジーと Kaygun-Khalkhali による Hopf 巡回ホモロジーとの間に写像を構成することを考える。もし直接写像を作るのが難しいようなら, その中間となるホモロジーを定義し, それを介して写像を構成することを試みる。 目標4の4つ目の項目については, 2022年度に導来不変性が得られたが, 2023年度は更に他の主要な代数的K理論の性質が成り立つかどうかを調べる。 目標3の2つ目の項目について, 具体的目標を Dundas-Goodwillie-McCarthy の定理の類似を証明することとしたが, 2023年度は値域が巡回ホモロジーである場合について調べる。それが成功したら, 値域をトポロジカル巡回ホモロジーにした場合について調べる。そのために, H-加群圏のトポロジカル巡回ホモロジーを定義し, その基本的性質を調べる必要もある。 目標5では, 具体例の考察が必要であるが, 2023年度は, Hopf代数が群環の場合に, Thomason の同変K理論とどのような関係にあるのかを調べる。更に, chain complex の一般化である N-complex の場合を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では, 研究者を招聘したり, 研究者を訪問したりすることを想定していた。また, 本研究に関連した研究者は海外に多いため, 海外から研究者を招いたり, 海外の研究者を訪問したりすることを考え, 約3/4を旅費に充てる計画だった。しかしながら, 2020年度と2021年度は新型コロナウィルスの感染が続き, 海外との行き来が難しい状況が続くと共に, 国内の出張も行なうことが難しかったため, 大幅な繰り越しが生じた。2022年度も, 引き続き海外との交流が容易ではない状況が続いたため, 2020年度と2021年度からの繰り越しを合せ次年度使用額が生じた。 2023年度は, 海外との交流が可能になりそうなため, 積極的に海外研究者を招聘するなどし, 情報収集を行なう。また図書の購入や, オンラインでの研究活動を補助する機器を購入することにも用いていく。
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