研究課題/領域番号 |
20K03584
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 佳彦 大阪大学, 理学研究科, 助教 (00710625)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 微分幾何学 / リーマン幾何学 / アインシュタイン方程式 / 漸近的対称空間 / CR幾何学 |
研究実績の概要 |
本研究の目標は、漸近的対称アインシュタイン空間の存在・一意性の研究に新たな展開をもたらすことである。漸近的対称アインシュタイン空間とは「境界バルク対応」の数学的定式化を与える非コンパクトな完備リーマン多様体であって、その性質は一般に、空間の無限遠境界の幾何学(共形幾何学やCR幾何学など)と密接な関係をもっていると考えられる。 2021年度は、漸近的対称アインシュタイン空間のひとつのタイプであるACHアインシュタイン空間(漸近的複素双曲アインシュタイン空間)について、その無限遠境界に誘導されるCR構造への放物幾何の理論によるアプローチとの関連を主に研究した。放物幾何の理論というのは1920年代のエリー・カルタンによる研究に始まり1960年代に田中昇が発展させた分野で、さまざまな微分幾何学的構造を統一的に扱う手法を与える。漸近的対称アインシュタイン空間との密接な関係も予想されているが、この関係は現時点では、限定的な状況(具体的にはAHアインシュタイン空間の場合)を除いてあまり調べられていない。本年度の研究を通じて、ACHアインシュタイン空間の性質と関係する「CRキリング作用素」が、放物幾何の理論の枠組みにおいてどのように位置づけられるかを解明することができた。論文を準備中である。 このほか、前年度までに取り組んだACHアインシュタイン空間の概複素構造の問題に関する論文を出版した。また、ACH空間におけるリッチフローの研究に関して予備的な議論を共同研究者と行った。さらにCR幾何学におけるさまざまな問題に関し広く理解を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続き新型コロナウイルス禍のさなかであり、この状況はしばらく続くものと思われる。各種の研究集会等は本年度も、状況により中止、または完全ないし部分的にオンラインで開催という形態がとられた。オンライン開催された研究集会等において従来と同様の成果が得られた部分もあるが、研究上の交流が以前のようにできているとは言いがたい。 それでも、上記のような研究集会等の場を可能な範囲で利用したり、またオンラインで共同研究者との打ち合わせを進めるなど、この状況に合わせた推進の方策をとった。 すでに述べたように放物幾何の理論との関連について一定の研究成果を得たほか、新たな研究の方向性についてもいくつかのアイディアを得た。このことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きオンラインで実施される研究集会等をうまく活用する。そのほか、2022年度には対面により実施される研究集会もある程度開かれる見通しがあるので、適切な感染防止策をとりつつ一定程度参加し、ここ2年間少なくなっている研究交流を推進したい。また共同研究者との打ち合わせも積極的に行っていく。 当初の予定にある「異なるタイプをもつ漸近的対称空間の連続的な族に対する幾何解析」というアプローチについて、本年度は十分な時間を確保することができなかったので、次年度は優先的に時間を割り当てていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画で予定していた出張がほとんど行えなかったのが理由である。それ以外については、概ね当初の計画どおりに支出した。2022年度は出張を伴う打ち合わせ、成果発表、情報収集等がある程度できるようになる見通しであり、この年度に当初割り当てた額は執行できると考えている。さらに、研究期間の延長を検討する。
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