研究実績の概要 |
空間の収束概念の一種として, Gromov は確率測度を備えた距離空間(pm 空間と呼ぶ)のボックス収束および集中(という名の収束概念)を導入した. 集中は, 測度集中現象に関係の深い位相である. さらに Gromov は集中位相に関して, pm 空間のモジュライのコンパクト化を定義した. この事から, 任意の pm 空間列は必ずコンパクト化の中で収束部分列を持つ. とくに, 次元を発散させて多様体列の収束を考える事により, 無限次元の対象を研究する事が可能となった. 尚, コンパクト化の元をピラミッドと呼ぶ. 当該年度において, 数川大輔氏(当時, 大阪大学)および江崎翔太氏(福岡大学)と共同で次の様な結果を得た. (1) Gromov のピラミッドの意味で, 無限次元のガウス空間と無限次元の単位立方体を考えると, これらはどんなスケール変換をしても写りあわない. これは非自明なピラミッドをはっきりと区別するおそらく最初の例である. (2) pm 空間に意味を持ついくつかの重要な関数不等式は, pm 空間の domination という有向関係で遺伝する事に着目して, それをピラミッドの性質とみなす事ができる. 更に, 関数不等式を成立させる様な最良定数が pm 空間のモジュライ上で半連続である事を示す事により, 特別なピラミッドに関して最良定数を計算する事が可能となった. これを(1)の結果に応用した. (3) スケール不変かつある意味で有限個のアトムを持っている様なピラミッド全体を考えると, これは非自明なピラミッド全体の無限次元部分空間をなす事を示した. これにより, 非自明なピラミッドがどのくらい多く存在するかという問題に関して一つの解答を与えた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
収束理論と一言で言っても幅広い. つまり, 考える位相の違いによって扱える極限のクラスが違っている. ピラミッドを考察する事により, 無限次元の空間を扱う事ができた. 特に従来は想定していなかったピラミッドに関する不変量の研究およびその応用ができた. これにより, ピラミッドの基礎的な理解がよく進んだ.
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