研究課題/領域番号 |
20K03603
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
永野 幸一 筑波大学, 数理物質系, 講師 (30333777)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | リーマン幾何学 / リーマン多様体 / CAT(k)空間 / アレクサンドロフ空間 / ホモロジー多様体 |
研究実績の概要 |
当該研究の研究主題は,微分幾何学と位相幾何学の両者の手法を用いながら,曲率が上に有界な測地的完備距離空間の幾何構造を解き明かし,曲率が上に有界なホモロジー多様体などに対して大域リーマン幾何学を展開することである. 令和2年度は,CAT(0)空間の漸近的位相正則性の研究の第一歩として,ユークリッド的体積増大度が小さいCAT(0)空間の幾何構造を記述した.まず,局所コンパクトで測地的完備な至るところn次元であるCAT(0)空間Xに対して,Xのユークリッド的体積増大度が3/2未満であればXはn次元ユークリッド空間に同相であり,1に十分近ければリプシッツ同相であることを示した.次に,Xのユークリッド的体積増大度が3/2に等しければ,Xはn次元ユークリッド空間に同相であるか,もしくは(n-1)次元ユークリッド空間と3点空間のユークリッド錐の直積空間に等長的であることを示した.さらに,Xがn次元ホモロジー多様体であれば,Xのユークリッド的体積増大度が3/2を少し超えても,Xはn次元ユークリッド空間に同相であることを示した.これらの研究成果を含む単著研究論文を公表しており,査読付き学術誌に投稿している. また,令和2年度は塩谷隆氏(東北大学)と山口孝男氏(京都大学)と共同で,曲率が上に有界な2次元測地的完備距離空間の幾何構造の研究の第一歩として,局所コンパクトで曲率が上に有界な2次元測地的完備距離空間Xに対して,Xの局所幾何構造を有限個のリプシッツ円板の和集合として記述した.さらに,Xの位相的特異点集合が誘導弧長距離に関して距離グラフの構造をもつことを示した.これらの研究成果を含む共著研究論文を公表しており,査読付き学術誌に投稿している. なお,令和2年度において,CAT(1)空間に対する体積ピンチング定理に関する単著研究論文が,再投稿を経て査読付き学術誌に掲載受理されたことを付記する.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度において,当該研究の主題に沿った研究成果として,CAT(0)空間の漸近的位相正則性の研究に関する単著研究論文と,曲率が上に有界な2次元測地的完備距離空間の幾何構造の研究に関する共著研究論文を執筆して,それぞれ査読付き学術誌に投稿している.これらの研究論文は,おおむね当初の研究計画の通りに得られた研究成果である.さらに,これらの研究論文は各々の研究の方向に向けた第一歩に位置しており,今後の当該研究の土台となる研究成果である. 以上の理由により,「おおむね順調に進展している」と評価する.
|
今後の研究の推進方策 |
令和3年度は,一つ目の研究課題として,曲率が上に有界な距離空間の壁型特異性の研究を推進する.局所コンパクトで曲率が上に有界な測地的完備距離空間の点がn次元壁点であるとは,その点における接空間が,(n-1)次元ユークリッド空間と3個以上の点からなる離散距離空間上のユークリッド錐との直積空間に等長的であるときにいう.曲率が上に有界な距離空間において,n次元壁点は最も典型的であり,最初に分析すべき基本的な特異性をもつ.具体的な研究目標は,n次元壁点の近傍の位相構造と計量構造を詳細に記述して,位相的特異点集合や計量的特異点集合そのものの幾何構造を究明することである.本研究目標を達成することにより,曲率が上に有界な測地的完備距離空間の幾何構造を特異点集合の構造を含めて深く理解できることが期待される. 二つ目の研究課題として,塩谷隆氏(東北大学)と山口孝男氏(京都大学)と共同で,曲率が上に有界な2次元測地的完備距離空間の幾何構造の研究を推進する.具体的な研究目標は,曲率が上に有界な2次元測地的完備距離空間に対して,曲率の上界とホモトピー型を保つ形で多面体近似定理を定式化することと,適切な曲率測度に関するガウス・ボンネの定理を確立することである.本研究目標を達成することにより,曲率が上に有界な2次元測地的完備距離空間の幾何構造の理解が補完されるだけでなく,一般次元の場合の新たな研究の方向性が切り開かれることが期待される. これらの研究課題に取り組むことによって,曲率が上に有界な測地的完備距離空間に対して,その幾何構造を解き明かしていき,大域リーマン幾何学の展開を推進していく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度において,コロナ禍のため学会や研究集会の開催が中止,延期もしくはオンラインとなり,当該研究課題の遂行に伴う研究発表,情報収集,研究打ち合わせなどのための出張の機会がなかった.このため,当初に旅費として計上していた予算を次年度に繰り越すことになり,次年度使用額が生じた次第である. 次年度は,繰越分によって物品費や旅費としての予算を増やし,当該研究を円滑に遂行するために必要な研究環境のさらなる整備と,延期になっている国際研究集会への参加などのために,より有意義に,より効果的に使用できるように計画する.
|