研究課題/領域番号 |
20K03605
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野坂 武史 東京工業大学, 理学院, 准教授 (00646903)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トポロジー / 3次元多様体 / 結び目 / べき零群 / 被覆空間 |
研究実績の概要 |
申請書に書いた研究計画どおりに、3次元トポロジーのべき零的な研究を進め、研究法を開拓している。昨年度も幾つか結果を得ることが出来、3つのプレプリントを作成した。各論文を項目だてて説明する。 (1) 結び目のメタべき零的研究を進め、結び目の不変量を構成した。それは、ファイヴァー結び目のモノドロミーを一般化した形の不変量である。その際に、2次元曲面の写像類群にあるジョンソン準同型の議論を援用した。この研究では、自由群のべき零有理化した群の自己同型群が鍵となる。そこで本論文ではその自己同型群を調べ、不変量を幾つか計算した。 (2) (1)の自己同型群にシンプレクティック性を見出すときには、Foxペアリングという高次の交叉形式が鍵となる事がわかった。Foxペアリングの代数的な先行研究は幾つかあったが、当論文ではポアンカレ双対性をもつ群に焦点を当て、群コホモロジーの言葉でFoxペアリングの新しい研究方法を提唱した。さらに``高次Foxペアリング"も提唱し、任意の次元の結び目に対し、基本となる高次Foxペアリングが存在する事も示した。 (3) 2次元曲面の写像類群の研究の一つとして、ジョンソン準同型というものがある。本論文ではその準同型に対数(Logarithm)を考えた。対数を定義できれば、Goldmanリー代数や形式的シンプレクティック幾何に関連を与えられる。この論文では、全ての写像類群の元のLogを定義できていないが、``指数可解的"というクラスに限定すれば対数が定義できることを示した。既知の対数の定義は「写像類のホモロジー上の固有値がすべて1」というクラスに限られていたが、今回の``指数可解的"は或る程度広いクラスである事が本研究の利点である。なお対数を定義する際に、代数的な議論ではなく、可解Lie群の解析的な性質を用いる点に独創性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の研究計画では、べき零群を用いた3次元トポロジーの研究法として3つの目標を掲げた。一年目は、そのうち一番目に関して満足のいく結果を得た。 2年目の本年度はその3つのうち、2番目に取り組んだ。その目標は、べき零的な局所系で双対性が見出されるかという研究である。プレプリント(1)では出来上がるべき不変量の様相ないし大枠を提唱する事が出来た。双対性の派生事項としてシンプレクティック性が現れ、そこでの鍵がFoxペアリングであることが解ってきた。プレプリント(2)では群コホモロジー上で生じる双対性からのアプローチを提唱し、Foxペアリングの性質が解明されつつある。 しかしまだ双対性として腑に落ちる現象や不変量が得るには至っておらず、まだ課題が残っている。最後に、3番目の目標に関しては結果を一切得られておらず、後の1年後の課題となった。詳細を述べると、コンコルダンス群については4次元的の繊細な議論を要する為、細かい補題が幾つか必要な事に気づき、どの点で難しいかが解ってきた。現在は、その難しさを調べ、克服法を練っている最中である。 しかしながら、本研究の方針から派生的に上記のプレプリント(2)(3)を得られたことは、申請書の計画にはないものの満足のいく成果と思われる。例えば(3)にあったジョンソン準同型の対数は、3次元多様体のみならず写像類群の研究にかかわる内容であり、多少インパクトのある内容である。その対数の応用として、(1)で得た不変量にLogを取ることも考える事が出来、これによりKontsevichの形式的シンプレクティック幾何の派生研究が使える様相が現れた。これ以降の論文に続きそうなテーマを与えた点で、意義のある論文と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次の2つの方策を考え、3次元トポロジーのべき零的研究を進行させる予定である。 (I)上記の3つの目標のうち他の2つに関しては結果を多く得られなかった為、後の1年で研究を進める。その一つ目にべき零的な双対定理を示すには、代数トポロジーのS双対定理が鍵となろう。その双対定理はスペクトラムの視点から解釈するのが標準であるため、筆者はその局所系係数への読み直しを推し進めていく予定である。また結び目のミルナー双対定理との兼合い、とくにシンプレクティック性やFoxペアリングに注目しながらず、双対的な付加構造を丹念に調べる。これらの構造を詰める事で部分的な結果を得る事が期待できる。 (II)論文(1)の続きとして、Kontsevichの形式的シンプレクティック幾何の研究に近づける試みも考えている。ここで鍵となるのはLie-Lie代数の1次ホモロジーに近づける事である。上記の研究で``指数可解的結び目"に対して、(1)の結び目不変量にLogが定義する事が出来、特に、その1次ホモロジーに値を持たせることができる。この1次ホモロジーは既存の研究があり、大きな群である事が予想されている。例えばConantたVogtmanなどの研究で、グラフホモロジー的な議論から、そのホモロジーは定量的に分析する事が出来る。そこで今後の計画として、彼らのグラフ的な分析に準じて筆者の不変量を定量的に捉える試みと計画を考えている。さらに性質や関係式をグラフを用いて見出せる可能性も考えており、あわよくばLMO不変量や有限型不変量との関連も模索する。また自由群の外部自己同型群のホモロジーとの関連も調べる。この際に、オペラッドの議論が散見できるため、オペラッドに関する知識や情報を収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由はコロナの影響による。著書の購入や研究設備の投資や英文添削などに費用をかける計画である。
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