研究課題/領域番号 |
20K03611
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
小池 敏司 兵庫教育大学, その他部局等, 名誉教授 (60161832)
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研究分担者 |
小川 聖雄 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 准教授 (50408704)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 構造安定性 / ナッシュ写像 / 部分解析的集合 / 相対ジェットの十分性 / 結構次元 / 幾何学的方向束 |
研究実績の概要 |
本研究における前半の第一目標は、ナッシュ多様体間のナッシュ写像(つまり、実代数的写像)に対するナッシュ構造安定性問題の解決に努めることにある。つまり、ナッシュ構造安定性に対する結構次元(安定な写像全体が写像空間内で開かつ稠密になる多様体の次元の対)を決定することにある。本研究で試みているのは、写像の定義域のナッシュ多様体がコンパクトの場合に、近年、塩田昌弘氏達によって決定されている実解析構造安定性の結構次元にナッシュ構造安定性の結構次元が一致することを示すことである。この問題に関する当該年度の研究成果は、実解析構造安定性の結構次元はナッシュ構造安定性の結構次元になっていることを示したことである。 滑らかなコンパクト多様体から滑らかな多様体への滑らかな写像に対する構造安定性定理を示す上で非常に重要な役割を果たす概念に、R. Thom によって導入された「ジェットの十分性」と呼ばれるものがある。この概念に関連し、研究協力者の K. Bekka 氏と相対ジェットの V-十分性と C^0-十分性に対する相対 Kuo 条件と呼ぶ特徴付けを与えていた。この相対 Kuo 条件に対し、いくつかの同値条件を見つけたので、それらを一つの論文にまとめて欧州の雑誌より出版した。 本研究における後半の目標は、実解析多様体間の実解析写像に対する部分解析的構造安定性問題の解決に努めることにある。この問題に関連し、研究協力者の L. Paunescu 氏と部分解析的集合に対する幾何学的方向束の安定化問題に取り組み解決し、この結果を論文にまとめていたが、その論文を欧州の雑誌より出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上の「研究実績の概要」欄でも述べたように、最初の2年間の研究目標である実代数的写像の構造安定性定理の確立に対し、当該年度は「実解析構造安定性の結構次元はナッシュ構造安定性の結構次元になっている」ことを示した。逆に、「ナッシュ構造安定性の結構次元は実解析構造安定性の結構次元になっている」ことも示されれば、目標が達成されたことになるのだが、まだ未完成である。実は、ある論文に書かれている結果を用いると、逆も示すことができる。しかし、結果自体は正しいと思われるが、その証明に不完全と思われる箇所があり、使用を躊躇している状況である。そういう訳で、現時点では逆は示されていない。 本研究では、種々の構造安定性定理の確立を試みているが、それらに関連して、いくつかの付随的結果を示すこともできている。これらのことも考慮に入れ、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
「理由」欄で述べたように、本研究の前半の目標である実代数的写像の構造安定性定理の確立に関する研究において、「ナッシュ構造安定性の結構次元は実解析構造安定性の結構次元になっている」ことを示すことが残されている。まずは、この問題の解決に取り組む。 上の問題が解決されれば、後半の研究目標である実解析写像の部分解析的構造安定性定理の確立に取り組む。位相構造安定性定理の証明において主要な道具立てとなった層化理論は、部分解析的構造安定性定理の証明においても、重要な道具立てになるものと思われる。層化理論の専門家である外国人研究協力者の K. Bekka 氏、部分解析的集合の幾何学的方向束の安定性定理を共同で示した外国人研究協力者の L. Paunescu 氏との共同研究を通して、この問題の解決に取り組む。 本研究では、種々の構造安定性定理の確立を目標とすると同時に、それらに付随した研究結果も示して来ている。研究全体を通しての目標として、本研究で得られた結果を「安定写像を通した可微分多様体のトポロジーの研究分野」へ応用することも掲げている。その分野の専門家との議論を通して、応用する課題の定式化に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の使用予定額の8割越えは、本研究遂行の上で海外研究協力者達との相互訪問を通した共同研究を行うために用いる海外渡航費、本研究で得られた成果を発表したり、他の研究者達の成果からヒントやアイデアを得るために研究集会に参加するのに用いる出張旅費、関連する国内研究者達との議論を行うために訪問する国内研究旅費などの旅費に使用する予定であった。しかし、新型コロナの流行のために、海外出張は認められず、国内研究集会はズームなどを用いたオンラインによる開催で出張しての参加はできず、また、その他の国内出張も多くの制限が設けられていた。そのため、旅費を使用することができなかった。 年度が変わった後、当該年度までとは異なり、国内研究集会は参加とオンラインのハイブリッド型になって来ている。また、関連する特異点研究集会については、次年度後半に5回集中して開催予定になっており、また、通常の国内出張における制限も無くなっている。このような状況の変化を踏まえ、当該年度に用いることができなかった旅費については、次年度のものと合わせ、海外研究協力者の招聘、研究集会への参加や他大学研究者への訪問などを頻繁に行い、使用する。
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