研究実績の概要 |
3次元ユークリッド空間内の周期的な極小曲面全体のモジュライ空間の構造を, Morse指数・退化次数・符号数という幾何学的量を用いて解読するというのが本研究課題の趣旨であった. 本年度は, 特に, 種数が4であるような3重周期的な極小曲面全体のモジュライ空間の記述を試みた. 具体的には, 1970年に結晶学者によって構成された極小曲面の幾何的量を数学的に特定したというものである. これは前課題「周期的極小曲面の安定性およびその極限の研究」の発展的研究に該当する. 実際, 前課題は種数が3の場合を考察していたのに対して, 今回はその高種数版になる. 大きな困難は, Riemann面上の第二種微分の周期計算にある. 一般に, 極小曲面はRiemann面といわれている, 複素数を用いて記述される空間の特殊ケースに該当する. Riemann面には有理型微分といわれている, Riemann面上の積分の基になるものが定義でき, その有理型微分の中で留数がないという性質をもつものを第二種微分という. 上述の幾何的量を計算するには, 考察している曲面の標準ホモロジー基底を決定し, それに沿った有理型微分の積分, 即ち, 周期を計算しなければならない. 種数が高いがゆえに, 標準ホモロジー基底の特定が困難であり, さらに, 計算結果をシンプルな型にするのに技術を要する. それをすべてクリアしたというのが成果となる. また, 前前年度に実施した本研究課題に関連した研究内容が, 北海道大学が刊行している査読付き国際誌に掲載されたことも大きな成果であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
種数が4の場合の幾何的量は, 1990年代のMontiel-Rosによる結果の仮定を満たす場合以外は計算されておらず, それ以外の場合で幾何的量を特定したこと自体が大きな進展である. また, 今年度に掲載された研究内容も成果は大きい. 種数が3の場合の三重周期的な極小曲面全体のモジュライ空間は実次元が5次元の状況が一般的な状況であることが知られていた. これまでは助変数1, 即ち, 実1次元分の構造しか把握できていなかった. しかし, 今回の研究を通して, 一部分ではあれども, 助変数3, 即ち, 実3次元分の構造を知ることができた. まだ実5次元分の情報には満たないものの, より大きい次元分の構造を解明できたことは大きな実績であったと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
三重周期的な極小曲面の幾何的量の計算については, 種数が高い場合と種数が3の場合とはストーリー自体が共通しているので, 種数3の場合を記述する. 種数が3であれば, より多くの助変数の変形族, 理想は助変数5の変形族の構成を行うというのが第一ステップとなる. 種数が3の場合, その曲面は超楕円型といわれている状況になっており, 2つの複素変数の方程式によって曲面が記述される. したがって, 数式化は容易であるものの, その中で三重周期的な極小曲面を定めるものを抽出するのに大きな困難がある. その困難を克服することが非常に大きな課題となる. 次に, 構成した助変数5の変形族の幾何的量を特定することが第二ステップである. これは数値計算を使わざるを得ないほど複雑な状況になっていると推察され, そのためには周期計算という特殊技術を要する計算をしなければならない. 複雑な状況ゆえに, その周期計算にも困難がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの問題が収束の兆しを見せてきたとはいえ, すぐにパンデミック前のような頻度の海外出張や国内出張をしにくい状況であった. したがって, 事前に計画していた対面での研究打合せをオンライン化する, ないし, キャンセルすることが多々あり, 次年度に予算を持ち越す結果となった.
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