研究実績の概要 |
最終年度たる2023年度は、Morse指数が1のままモジュライ空間の境界まで伸びていくような三重周期的な極小曲面の変形族を構成することができたことが最も大きな実績であった。三重周期的な極小曲面は界面活性剤の膜の数学的モデルであり、自然現象で登場し得る三重周期的な極小曲面はMorse指数が1となることがRosによって2006年に示されている。このようなことから、Morse指数が1となるような三重周期的な極小曲面の研究は非常に興味深いものである。既に、Morse指数が1なる自己交叉のない三重周期的な極小曲面全体の集合はモジュライ空間の中でコンパクトになるということがRitore-Rosによって示されている。一方、納谷・庄田によって、Bolza曲面という種数2なるRiemann面から派生するモジュライ空間の境界付近はMorse指数が1となることが判っている。したがって、Morse指数が1なる自己交叉のない極小曲面からBolza曲面による境界まで伸びる変形族のうち、Morse指数が1となるようなものは、どこかで自己交叉をもってしまう。しかし、そのような変形族が存在するかはまったく知られていなかった。このような背景から、Morse指数が1のまま境界まで伸びていく変形族の構成が重要視されたのであるが、今回、rPD族という自己交叉のない三重周期的な極小曲面の変形族からBolza曲面による境界まで伸びる変形族を構成し、Morse指数が1。符号数が(4,5)のまま変形することが判った。 本研究期間にて、多くの三重周期的な極小曲面の変形族における幾何的量(Morse指数、退化次数、符号数)を特定することに成功した。非常に充実した内容であったことを報告する。
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