研究課題/領域番号 |
20K03619
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
長郷 文和 名城大学, 理工学部, 教授 (30513634)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 指標多様体 / 結び目群 / 理想点 |
研究実績の概要 |
本研究は,結び目群のSL(2,C)表現のうち,メリディアンの像のトレースがゼロになるものに限定し,その指標集合 X の幾何構造を通して,ノットコンタクトホモロジーの位相幾何学的性質の完全解明を目的としている. 本研究初年度においては,上記指標集合 X を代数的集合と見たときの,理想点に注目して考察を行った.これを説明するために,X の幾何構造を簡単に述べる.まず,X は2重分岐被覆のような構造をもっており,その底空間に対応するものも,代数的集合 Y になっている.(Y 自身は,結び目の2重分岐被覆の指標多様体 Z と密接に関係があり,単純な結び目では,Y と Z は同型になることが研究代表者の成果でわかっている.また,Y の座標環としてノットコンタクトホモロジーが現れることも知られている.)この代数的集合 Y の各点は,更に添加された代数方程式を満たすか否かによって,全空間にリフトするか否かが決定される.この際,X にリフトできなかった Y 上の点を幽霊指標とよぶ. この様に,ある種,代数方程式のを満たさないものとして捉えられる幽霊指標であるが,現在までの計算機実験で見つかっている幽霊指標は,ある種の代数方程式の解として記述されることが推測されている. これらの状況から,代表者は,代数的集合の「射影完備化」において添加される点,つまり理想点が,リフトしない点として射影により Y に現れているのではないかと推測した.ただ,単純に,もし X の理想点が幽霊指標として Y に射影されたとすると,Culler-Shalen理論により矛盾が起こる.そこで注目したのが Z の理想点である.Z の理想点が幽霊指標として Y に現れている可能性について,現在,考察を続けているが,決定的なデータは未だ得られていない.今後も,この考察を粘り強く続けていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では,初年度については,結び目群間の全射準同型をきっかけとして,幽霊指標の存在について研究を進める予定であったが,世界的な新型コロナ感染拡大の影響で,これに関する共同研究が殆ど進まなかったことが影響して,初年度はこの視点からの研究の進展はない.この意味では,研究の進捗状況は遅れていると考えられる. 一方,本研究課題の中盤に予定していた「代数方程式の解としての幽霊指標の性質」の考察については,初年度の研究において,現在考察を進めている「理想点」との関係についての着想に繋がっていることを踏まえると,こちらは,計画以上に進展していると見ることができる. 以上を踏まえ,本研究課題の進捗状況は,やや遅れていると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」でも述べたように,本研究課題初年度の研究において得られた「理想点」の視点から,今後も研究の深化を図りたいと考えている. 一方,当初の研究計画で初年度に実施を計画していた「結び目群間の全射準同型」をきっかけとした幽霊指標の存在についての研究は,新型コロナ感染拡大の影響を見ながら,可能な限り,共同研究者との研究を再開したいと考えている.更に,指標多様体 Z と代数的集合 Y との関係などを利用した,幽霊指標の存在と結び目のトポロジカルな性質との関連性についての研究も,機会を見つけて実施したい. 以上の方針を総合的に判断・実施することで,2年目の研究においては,本研究の目的達成に向けた足場を築きたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績にも記載したように,初年度の研究においては,世界的な新型コロナ感染拡大の影響により,研究集会やセミナーなどは軒並み中止,またはオンラインでの開催となったため,予定していた出張を全てキャンセルせざるを得なくなってしまった.また,同じ理由により,専門知識の提供をして頂く研究者の招聘なども実施できなかった. これらが原因となり,次年度使用額が生じた.尚,この次年度使用額については,新型コロナ感染拡大状況の改善に応じて,出張旅費へ充当していく予定である.
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