研究実施計画に記載したもう一つの関連アプローチである半順序集合上で不変部分空間問題の考察を、前年度後半から始めたが、そのときに得られた成果の新展開を目指すべくR4年度の研究を実施した。これまでの考察過程や結果にも触れつつ、R4年度の研究実績を以下述べるが、同時に研究期間全体を通じた主な研究成果にもなっている。 任意に与えられた有界作用素Tの非自明で不変な半閉部分空間の集合からなる半順序集合Inv(T)を考え、その上で定義される自然な増加写像として半閉部分空間の2分の1乗という写像を定義した。不変な半閉部分空間がこの写像の不動点であることと閉部分空間であることは同値であるので、不動点の存在性の考察が重要となる。このような課題を扱う定理の一つが、Boulbaki-Kneser の不動点定理であり、この汎用性のある定理を適用することで示唆的な次の結果を得ることができる。「半順序集合Inv(T)が完備ならば T は非自明で不変な閉部分空間を有する。」従って、すべてのTについてInv(T)が完備ならば不変部分空間問題は肯定的に解決されることになる。以上を踏まえ、R4年度は主に以下の問題を考察した。 問題1「Inv(T)が完備性を満たすことはあるのか.」 問題2「Inv(T)の極大鎖Kの1/2乗がKを包含するとき、Kは閉部分空間を含むか.」 前者の考察では「もしTが不変で稠密な半閉部分空間を少なくとも一つもつならばInv(T)は完備ではない」という結果を、Ammanの不動点定理を利用して得ることができた。これは完備性という半順序集合の大局的な性質を調査することが、不変部分空間問題を考察するにはそれほど得策ではないことを示唆していると思われる。従って、局所的視点として極大鎖に焦点を当て、それが閉部分空間を含むための考察が後者である。これは一部進展があるのみである。
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