研究実績の概要 |
完全WKB解析により解の接続問題を議論する際,線形と非線形の間に大きな違いがある. 線形の場合,解の接続公式は隣接領域上に定義されたボレル和の1次結合の形で記述できる.一方非線形の場合,零パラメータ解のボレル変換がある点で特異点を持てば,その特異点の整数倍の形をした特異点が無限個現れる.その影響で解の接続公式に,インスタントン項と呼ばれる複雑な項を含む無限級数が現れ,正しいStokes現象を記述するためにインスタントン解(以下解と略記)を必要とする.その解の構成は非常に難しい.これまでに4種類のパンルヴェ階層(PJ)mの解の具体的表示は得られているが,解の特異性については未解決の部分がある.今年度は (i)野海山田系(NY)mの解の構成,(ii)(PI)mの解の特異性の解明 に取り組んだ. (i)先行研究(青木,本多,梅田)で開発した解構成法(方程式に附随する代数構造を取り出し,未知関数の母関数と多重スケール解析を組み合わせる)を(NY)mに適用できるか検証した.しかし方程式の形が複雑で一筋縄ではいかない.計算はなかば途中だが(NY)m(m:偶数)の解の基底を記述すると予想される因子を発見し,附随する代数構造を見出すところまで進んだ.(PJ)mの解の基底には,ある種の2次形式が共通して現れた.見つけた因子は,2次形式に対応するもので,解構成の鍵となるであろう. (ii)(PJ)mの解の場合,変わり点の他に多くの特異点が見かけ上現れる.その特異点の出現は非線形に頻出する小分母問題に起因する.しかし(PJ)mの解の低次項については,小分母が消えてしまい問題は起こらない.この問題は2010年頃から自身の未解決問題で,研究が止まっていた.これらを解明するために,(PI)mの解構成を見直し,etaの負冪に展開せず,固有ベクトルに着目し,解係数決定方程式を導出するという新視点で再研究している.
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き,今年度の研究実績の概要で述べた(i)と(ii)の研究を進める. またLax対を持つ非線形方程式のStokes幾何の研究についても取り組みたい.具体的には,行列型パンルヴェ方程式のStokes幾何の構造を研究する.行列型パンルヴェ方程式のStokes幾何においても,変わり点同士の縮退,変わり点とStokes曲線の縮退,Stokes曲線同士の縮退現象が起きるかどうか?について調べたい.また非線形方程式のStokes幾何に特有の第2種変わり点は,未だ解明されていない点が多い興味深い対象である. 特に,高階パンルヴェ方程式の第1種, 第2種変わり点に着目して研究を進める.
|