研究課題/領域番号 |
20K03658
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
石崎 克也 放送大学, 教養学部, 教授 (60202991)
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研究分担者 |
藤解 和也 金沢大学, 電子情報通信学系, 教授 (30260558)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Fermat type equations / Nevanlinna theory / Stothers-Mason theorem / difference radical / differential equations / difference equations / shifting zero / exponential polynomials |
研究実績の概要 |
2021年度における研究のひとつは、2020年度に引き続き、複素平面上でのNevanlinna理論のFermat型函数方程式への応用である。特に、Fermat型函数方程式の差分類似の問題を古典的な未解決問題との比較検討が中心課題ある。まず、ひとつの差分radicalの考え方を導入しStothers-Masonの定理の差分類似を導いた。更に、一般化を行い、差分Nevanlinna理論の表現を利用して、差分Fermat型函数方程式について解の存在と冪数との関係(不等式)を導いた。しかしながら、この差分radicalの定義では、不等式が最良で非自明な例も構成できるものの古典的なStothers-Masonとの間に不自然な相違が確認できた。そこで、別の角度からあらたに差分radicalを定義し、差分Nevanlinna理論の表現を利用することで、自然な形にStothers-Masonの定理の差分類似を構築した。あらたな定義のもとでも非自明な例も構成できる。この発想の転換は線形差分方程式の非自明な有理型関数解を構成するときに用いた2項級数(下降階乗冪級数)の考え方を応用することに依るものである。
また、複素領域での線型差分方程式論の研究も推し進めた。線型差分方程式論においては線型微分方程式との共通的な性質と異なる様相とが現れることに注目し、線型微分方程式論で重要な役割を演じてきた指数多項式の性質の整理から取り組んだ。係数に含まれる指数多項式と解に現れる指数多項式の双対性についての結果および整関数解の零点の値分布(複素振動)について新たな結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複素領域での多項式係数の線型差分方程式は20世紀初頭にNorlund, Milne-Thomson, Whittakerらにより盛んに研究され有理型関数解の存在も示されている。更に、1986年にPraagmanによって係数についての条件が緩和された。一方で、線型微分方程式論にあるような解の増大度や複素振動を記述するには有理型関数解の構成法を見直すことが求められていた。この課題に対して2004年・2020年に発表した論文では線形差分方程式の非自明な有理型関数解を構成するときに2項級数(下降階乗冪級数)の考え方を応用した。2021年度には、位数の小さい整函数については2項級数による零点移動法が有効で整関数の表現・位数などに関する値分布論の差分類似を論文に纏め学術雑誌に発表することができた。この論文では、前年度のFermat型函数方程式の定理およびStothers-Masonの定理の差分類似に関する差分Nevanlinna理論を改善した。実際、別の角度から差分radicalを定義しNevanlinna理論の表現を利用することで、自然な形にStothers-Masonの定理の差分類似を構築できた。あらたな定義のもとでも非自明な例も構成できた。 研究目標に挙げた柳原の問題、すなわち、ある種の高階非線形差分方程式が複素領域において有理型函数解をもつための必要十分条件を求める問題は投稿準備の段階にこぎつけることができた。実際、必要条件についてはNevanlinna理論の増大度の評価が有効であり、方程式の形は3つが候補として残っていた。このうちの2つについては差分Riccati方程式の例外を含むもののNevanlinna理論と特異点拘束法の併用が有効に機能し、有理型函数解をもつための十分条件も定められた。現在、投稿に向けて推敲中である。
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今後の研究の推進方策 |
17世紀に提唱されたFermatの数論の問題を受けて18世紀にWaringは与えられた自然数を自然数の冪の和で表現可能かという問題に整理した。20世紀初頭にHilbertは十分大きな与えられた自然数について肯定的な証明をあたえた。自然数の役割を函数に置き換える函数方程式の問題はしばしばFermat型函数方程式といわれGross, Osgoodらによって議論されて来た。Haymanは1984年の論文で対象となる函数を超越的有理型函数、有理函数、超越整函数、多項式に分けて問題を整理し、2004年(Gundersenと共著)・2014年にNevanlinna理論を用いた解法を紹介し未解決部分を浮き彫りにした。21世紀に入りNevanlina理論やWiman-Valiron理論などの値分布理論の差分類似の研究が進展するに伴い、Fermat型函数方程式の差分類似も盛んに研究されるようになった。しかし、項数3の場合でさえ未解決部分が多い。本研究課題の中でも代数的常微分方程式の構成などを試みて一定の成果を得たが、まずは低項数の非自明な函数解を構成することへ戻って考察をすることの重要性を感じている。次数の揃った場合の非自明な例の構築の完成が目の前なのでこれを目指したい。 遅れを持つ微分方程式(差分-微分方程式)の研究について最近の先行研究の進捗状況を整理した。今後に生かしたい。 解の存在を仮定したMalmquist型の結果は多く得られているものの本質的な存在定理とはほど遠く別角度からの研究の必要性を感じている。高階非線形差分方程式が複素領域において有理型函数解を調べる方法は値分布理論、代数的方法、関数解析的方法、積分変換論なども含め新たな方法が登場している。値分布理論を用いてNorlundの構成した有理型函数解の複素函数論的性質を調べることをここでの推進方策として挙げておきたい。
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