研究実績の概要 |
シュレディンガー作用素の平方根に相当するディラック作用素のスペクトルを非コンパクト型対称空間上で考察した. 非コンパクト型対称空間上のシュレディン ガー作用素のスペクトル分解定理であるプランシュレル定理とは異なり, ディラック作用素に対するプランシュレル定理には極小放物型部分群以外の尖形放物型部分群に対応する主系列ユニタリ表現も現れる. 非コンパクト型対称空間上のディラック作用素の尖形放物型部分群に応じたスペクトルの解析手法の構築は, シュレディンガー作用素の各放物型部分群に付随する無限遠境界対称空間に応じた幾何学的散乱理論構築の土台となり得るものと考えられる. 対称空間上のディラック作用素に関するスペクトル解析の研究については, Goett&Semmelmann (2002)が点スペクトルの構造を決定したている. また, Camporesi&Pedon(2002)がランク1という特殊な条件の元で連続スペクトルを具体的に計算している. 本研究では, 対称空間に付随するLie群が線形である場合に, ランクの条件なしに連続スペクトルの構造を具体的に決定した. この結果については国際研究集会「Himeji Conference on Partial Differential Equations 2022」で研究成果の報告を行った. また, いくつかの特別な型の対称空間上において, ディラック作用素に対する一様レゾルベント評価と極限吸収原理を証明することができた. 今後は, ディラック作用素に対する一様レゾルベント評価と極限吸収原理を一般の場合に考察し, ディラック作用素に対するスペクトル解析と放物型部分群と対応する主系列ユニタリ表現の解析方法を土台にして, シュレディンガー作用素の各放物型部分群に付随する無限遠境界対称空間に応じた幾何学的散乱理論について考察する計画である.
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今後の研究の推進方策 |
ディラック作用素に対して連続スペクトルの構造を決定し, 特殊な型の対称空間においてはレゾルベント評価と極限吸収原理が 研究成果として得られた. ディラック作用素のスペクトル解析を通じて, 作用素に対する関数解析的な議論と放物型部分群と主系列ユニタリ表現に対する代数的な議論を結びつける土台が出来上がりつつある. 今後はこの土台をより洗練し研究課題に取り組むことで, 研究計画初年度の研究の遅れを取り戻す方針である.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は海外で開催される国際研究集会(対面形式)における招待講演の依頼が1件あり, 年度の途中まで海外出張のための旅費として相当額の予算を使用する予定であった. しかし, 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を理由として, 対面形式のみで開催される研究集会への参加を見送らざるを得なくなった. 物品費に関しては予算を執行したが, 旅費については対面形式の研究集会に参加しなかった為に執行する機会が無く, 次年度使用額が生じることとなった. この繰り越し分については, 来年度に対面形式での研究集会の開催が再開された場合には, 本研究課題に関連する研究集会への参加のための旅費として執行し, そうでない場合には本研究課題の遂行 に関連する数学の専門書の購入のための物品費として次年度に使用する計画である.
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