研究課題/領域番号 |
20K03674
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
磯部 健志 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (10262255)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ディラック・調和写像 / モースホモロジー / モース・ボット理論 / スピン山辺方程式 |
研究実績の概要 |
2022年度は,ディラック・調和写像に対するモース・ボットホモロジーの構成とその応用,および,球面上のスピン山辺型方程式の解の存在問題を研究し成果を得た. ディラック・調和写像のモース・ボットホモロジーの構成とその応用に関しては,ディラック・調和写像に対する作用汎関数が円周の掛け算によるスピノル成分への自然な作用で不変な場合を考察した.この場合に作用汎関数のカスケード型勾配流からなるモジュライ空間を定義し,その解析を通してモース・ボット型のホモロジーを構成し,具体的な計算を実行した.ホモロジーの構成とその計算結果の応用として,摂動項が優2次,漸近2次のそれぞれの場合に,ディラック・調和写像の円周作用による解軌道の個数の下限の評価を,トーラスの次元を用いて与えた.モースホモロジーに基づく2021年度までの研究で得ていた存在理論では,優2次の場合の解の存在に関しては何も主張することができなかったが,2022年度のボット型の臨界点を持つ場合へのモースホモロジーの拡張により,このような場合にも有意義な解の存在定理を得ることができたことは応用上重要であると考える. スピン山辺型方程式に関しては,標準計量をもつ球面上のスピン山辺方程式の様々な摂動が,解空間の構造にどのように影響を与えるかを考察した.摂動として考察したのは,球面のユークリッド空間へのはめ込みの平均曲率関数1の摂動として与えられる関数,および,球面の標準計量の摂動の2種類である.前者の摂動に関しては,摂動項が一般的な場合には,解の個数の下限は球面の次元の指数関数により与えられることを示した.後者の場合は適当な計量の摂動のクラスに対して,Bar-Hijazi-Lott不変量を達成する解が存在することを証明した.ここで構成した解は,多様体の計量が共形平坦でない場合にBar-Hijiazi-Lott不変量が達成される最初の例を与える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ディラック・調和写像に関しては,当初の計画通りモースホモロジーをモース・ボット理論にまで拡張できたこと,更に当初の研究計画にはなかったスピン山辺方程式に関しても成果を得ることができたので,総合的に判断して研究はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
今後も,ディラック・調和写像とスピン山辺方程式の研究を継続して行う予定である. ディラック・調和写像に関しては,これまでの研究で,モースホモロジーとモース・ボットホモロジーを標的多様体が平坦トーラスの場合には構成し,計算することができた.またその応用として,ディラック・測地線の存在定理をいくつか証明することもできた.今後は,より一般的な標的多様体に対して,モースホモロジーの構成を考察する計画である.一般の標的多様体の場合は,2021年度目での平坦トーラスで用いた研究手法は使えない.2023年度は研究の手がかりをつかむために,定義多様体が1次元の場合であるディラック・測地線をまずはじめに考察する.定義多様体が1次元でかつ標的多様体の曲率が非正の場合は,平坦トーラスで用いたアイデアを拡張・改良することで存在問題にアプローチできると考えているので,それを実行する. スピン山辺方程式に対しては,2022年度の研究から,標準球面上のスピン山辺方程式は一般的な摂動により任意個数の解を持つことがわかる.この結果から,「スピン山辺方程式の解の空間はコンパクトか?」という問題が自然に生じる.2022年度の研究を踏まえると,この問題は球面上では否定的であることが予想される.すなわち,球面上のスピン山辺方程式の解空間は,適当な平均曲率関数の摂動および標準計量の適当な摂動に関しては解空間はコンパクトではないことが予想される.2023年度以降の研究では,このような解空間がコンパクトではないような,平均曲率関数とリーマン計量の構成を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
出張を予定していた研究集会がコロナ感染予防のためにオンライン開催となり,出張を取りやめたために次年度使用額が発生した.2023年度の研究打ち合わせや研究集会参加のための旅費として使用する予定である.
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