研究課題/領域番号 |
20K03678
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岸本 展 京都大学, 数理解析研究所, 講師 (90610072)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 非線形シュレディンガー方程式 / 微分型相互作用 / 非局所型相互作用 / 初期値問題の適切性 / 短時間フーリエ制限法 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,非線形分散型偏微分方程式のうち非線形性の影響により分散型とは異なる性質が発現するようなモデルを研究している.前年度までの非局所・微分型非線形項を持つ3次非線形シュレディンガー方程式(以下KDNLS)についての研究を継続して行い,本年度は新たに以下の成果を得た(いずれも堤誉志雄氏(京都大学)との共同研究). 1.周期境界条件を課した初期値問題の可解性については,前年度までに初期値の小ささを仮定せず時間大域解を構成することに成功していたが,連続関数でないような正則性の低い初期値を考えた場合,自明解のまわりでの初期値に対する連続依存性が未解決であった.本年度はこれを厳密に証明し,初期値問題の適切性(解の一意存在および初期値連続依存性)についての結果を完全なものとした. 2.数直線上の初期値問題に関しては,十分に滑らかな初期値に対する時間局所的な適切性が知られているのみであり,特に時間大域解の構成が求められていた.本年度はその第一歩として初期値の滑らかさの仮定を弱め,1階連続微分可能でない関数を含むようなクラスでの時間局所適切性を示すことに成功した. 証明はいずれも短時間フーリエ制限法と呼ばれる手法による.これは非線形項の共鳴構造を利用するフーリエ制限法と対称性を利用するエネルギー評価とを組み合わせたもので,微分の損失を含む非線形分散型方程式に対し有効な手法であるが,KDNLSのように散逸性を持ったモデルでは対称性が損なわれるためエネルギー評価が難しくなる.本研究では方程式の散逸構造を利用できるようにエネルギー汎関数の補正項を上手く選ぶことでこの困難を克服しており,他の散逸を含む分散型モデルに対しても同様の方法が応用できると期待される.また,この方法は非局所項の係数について一様な評価が得られるため,非局所項の消滅極限問題にも有効であると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KDNLSに短時間フーリエ制限法を適用する構想は以前からあったが,散逸性による方程式の対称性の崩れが主な原因で上手くいっていなかった.本年度の成果を得るにあたり,前項で述べたエネルギー補正項の工夫以外にも,非局所型非線形項の形状に合わせた双線形ストリッカーツ評価式の改良や,アトム分解により定義される関数空間を用いた種々の議論の正当化,あるいはエネルギー汎関数の制御に必要な多重線形フーリエ乗算作用素に対するコイフマン・メイエ型評価式の整備など,先行論文では詳細に議論されていなかったりそもそも考えなくてよかった多くの技術的問題を克服する必要があった.従って,本年度の研究はその成果自体の重要性のみならず,その証明も込めて,短時間フーリエ制限法を用いた様々な研究や,散逸性の影響下で分散性により非線形性を制御するタイプの研究の今後の発展に大いに資するものであると考えている. 一方で,より複雑な共鳴構造を持つ問題の例として退化ザハロフ方程式の初期値問題の非適切性の研究を始めているが,共鳴相互作用の影響がKDNLSほど顕著でないために解析が難しく,現在までのところ新たな結果や知見は得られていない.
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今後の研究の推進方策 |
物理的にも重要なモデルであるKDNLSについては研究を継続し,第一に数直線上の初期値問題に対する時間大域可解性を解明したい.そのためには本年度の研究で得られたよりもさらに正則性の低いクラスで非線形性を制御する必要があり,方針として短時間フーリエ制限法の精密化や,周期境界条件の場合に有効だったゲージ変換の移植が可能かどうか検討する.加えて,周期境界条件の場合は共鳴相互作用が放物型項となって現れ時間不可逆性を生むのに対し,数直線上の問題では散逸性の影響がそれほど顕著な形では現れないため,初期値問題は時間両方向に適切となることも予想されている.これはKDNLSのモデル方程式としての正当性に関わる問題であり,その真偽の解明は本研究課題の目的に照らしても重要度の高いテーマである. より複雑な共鳴構造を持つ退化ザハロフ方程式に対しては,共鳴相互作用の精密な解析を通して,既に知られているソボレフ空間での非適切性(初期値連続依存性の破綻)の結果をジュブレクラスに拡張することを試みる.次年度には海外渡航計画としてD.Pilod氏(Bergen大学,ノルウェー)およびY.Hong氏(Chung-Ang大学,韓国)の訪問を予定しており,この問題について討論するとともに共同研究の立ち上げを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルス感染症をめぐる情勢の緩和により国内外の出張や研究者招へいの機会が増え,当初予定していた単年度使用額を大きく上回る支出額となったものの,前年度までの未使用額を使い切るまでには至らなかったため,次年度使用額が生じた. 次年度分請求額と合わせた助成金の使用計画については交付申請書に記載の通りであるが,特に次年度は研究促進のために専門家との討論を目的とする海外渡航を複数計画しており,主としてその費用に充てる予定である.
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備考 |
1.本研究課題におけるこれまでの研究成果の一部を纏めた未出版論文(学術雑誌へ投稿中)をウェブ上で公開している:https://arxiv.org/abs/2303.17359(2023年3月~) 2.本年度の研究実績の1.に関する論文(学術雑誌にて本年度出版)の増補版をウェブ上で公開している:https://arxiv.org/abs/2303.17360(2023年3月~)
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