研究課題/領域番号 |
20K03679
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西谷 達雄 大阪大学, その他部局等, 名誉教授 (80127117)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Bezout 形式 / 対称化行列 / 対角対称化行列 / Ivrii 予想 |
研究実績の概要 |
微分作用素 P の主表象 p と,p の時間余方向に関する導関数 p' との Bezout 形式 S を考える.この S は非負定符号で,P に対する方程式を標準的な方法で一階化した一階微分方程式系の対称化行列 (symmetrizer) となることを証明し,これを3次特性点を持つ微分作用素に応用することを考えた.S の固有値は非負であるが,この最小固有値は次の著しい性質を持つことを発見した.すなわち,最小固有値は p の時間余方向に関する判別式と p' の時間余方向に関する判別式の比で下から評価される.この著しい最小固有値の性質を利用するために,この S を対角化すること,すなわち,S が diagonal symmetrizer となるように一階微分方程式系をさらに変換する.今,p が 3 階で3次実効双曲型特性点を持つとすると pの時間余方向に関する判別式は本質的に時間変数 t に関して3次多項式であり,p' の時間余方向に関する判別式は本質的に時間変数 t に関して 1 次であることがわかるので,この判別式の比は本質的に t の 2 次多項式のような挙動をする.この比を下から,t の 2 次式で評価できれば,S の最小固有値を t の 2 次式で下から評価できることになる.このアイデアを,まずは P の係数が時間変数 t だけに依存する場合に応用し,この場合に Ivrii 予想を肯定的に証明することに成功した.またこの方法は,p が一般の3次特性点を持つ場合にも p の時間余方向に関する判別式を分解することによって適用することができるのでこのことを斉次方程式を例にとって,初期値問題が適切となるための精密な十分条件を与えることにも成功した.これらの結果は Matematische Annalen に投稿され,掲載が決定している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
p の時間余方向に関する導関数 p' との Bezout 形式 S が非負定符号で,P に対する方程式を標準的な方法で一階化した一階微分方程式系の対称化行列 (symmetrizer) となり,S の最小固有値は p の時間余方向に関する判別式と p' の時間余方向に関する判別式の比で下から評価される,という事実を発見したことにより P の係数が時間変数 t だけに依存する場合には Ivrii 予想を肯定的に証明することに成功した.さらにこの方法は一般の場合にも適用できる可能性が十分にある.特に,空間一変数の場合には,以前の申請者による結果と組み合わせることにより,この場合にも Ivrii 予想を肯定的に証明できそうである.
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今後の研究の推進方策 |
微分作用素 P の主表象 p と,p の時間余方向に関する導関数 p' との Bezout 形式 S を対角化し,S が diagonal symmetrizer となるように一階微分方程式系に変換する方法を一般の場合に適用するために,まず,p が 3 階で3次実効双曲型特性点を持つとき,p の時間余方向に関する判別式と p' の時間余方向に関する判別式の比を下から評価するような t の 2 次式を探すことに努める.またこの t の 2 次式の係数の精密な評価を行う.P の係数が時間変数tだけに依存する場合にはこの方法で Ivrii 予想を肯定的に証明することに成功したが,この場合には Fourier 変換を用いてパラメーターを含む常微分方程式に変換できた.一般の場合にはこの方法は使えないので,S の固有値の精密な評価を得ることに努める.この評価と t の 2 次式の係数の精密な評価が,擬微分作用素が援用できるならば,用い得る擬微分作用素のクラスを決定するはずである.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大により,予定していた国内外出張をすべて中止せざるを得なかった.新型コロナ感染症の収束状況にもよるが,中止した国内外の出張旅費に充てる.またオンライン研究集会が増えるであろうことに鑑み,それに適したPCの購入費に充てる.
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