研究課題/領域番号 |
20K03681
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石渡 通徳 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (30350458)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プロファイル分解 / 非コンパクト性 / 半線型放物型方程式 / 抽象力学系 |
研究実績の概要 |
前年度に続き本年度も引き続きコロナ禍のため、海外共同研究者との対面による研究連絡、国内共同研究者との対面による研究連絡がほとんど実行できなかった。本年度の研究内容は主に二つである。 まず、今年度までに大枠の解析を終了した、ソボレフ臨界指数をもつ半線型放物型方程式の非自明な時間大域解の漸近挙動を、プロファイル分解を用いて解析した。前年度までの研究では、非有界な空間領域における問題に対して、エネルギー汎関数の非負性が非負値解に対してのみ示されていたため、この仮定のもとでの結果しか得られていなかった。本年度の研究において、エネルギー構造をより詳しく解析することで、この不自然な仮定を取り除いた。これにより、研究課題提案時に予想していた、「時間大域解は一般にスケール不変性に由来する凝集現象を起こしつつソボレフノルムは有界にとどまる」という結論が自然な仮定の下で得られた。特に解の臨界ルベーグノルムの漸近挙動を得た。一方で、エネルギー構造からはソボレフノルムの漸近挙動の解析が自然であるが、解の非負性のもとでこれについても完全解決を得た。非負性の仮定を除いた場合の、時間大域解のソボレフ空間での解の漸近挙動の完全な決定はいまだに未解決である。 研究内容の二つ目は、空間全領域における、ソボレフ劣臨界指数をもつ半線型放物型方程式の解の漸近挙動の研究であって、「時間大域解は一般に平行移動不変性に由来する逃げ去り現象を起こしつつソボレフノルムは有界にとどまる」という結論が自然な仮定の下で得られた。特に解のソボレフノルムの漸近挙動についても完全解決を得た。この結果は現在投稿中である。 さらに、プロファイル分解を用いた以上の解析を、抽象力学系の理論として定式化することを試みた。これについては「拡張されたオメガ極限集合」や「平衡点」の定義を導入することにより、基礎的な理論展開を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究課題は半線型放物型方程式を例として、「非コンパクトな軌道をもつ時間大域解の漸近挙動を、プロファイル分解を用いて解析する」ものである。そのような方程式の例として、(1)ソボレフ臨界指数を持つ放物型方程式、及び、(2)ソボレフ劣臨界指数を持つ、空間全領域で定義された放物型方程式を例として扱う。前者は「スケール不変性」、後者は「平行移動不変性」という、代表的な非コンパクト変換群のもとでの不変性を持つ。 さらに、これらの例の解析を通じ、(3)「コンパクト軌道を持つ抽象力学系に対する既存の理論を、非コンパクト軌道を持つ場合に拡張する」ことも試みるものである。 本年度の研究を通じ、課題(1)については臨界ルベーグ空間の枠組みでの完全解決を見た。本来ソボレフ空間の枠組みでの解決が自然であり、本年度の研究結果はこれには一歩及ばなかったものの、来年度の研究に向けた基礎となる結果を得た。また課題(2)については、プロファイル分解を用いたエネルギー構造の解析を詳細に行うことで、ソボレフ空間の枠組みでの完全解決を得た。本結果はすでに論文を執筆し投稿済みである。課題(3)については、課題(1), (2) に対する研究結果を抽象化することで、理論構築のカギとなる「拡張されたオメガ極限集合」の概念を暫定的に定義し、理論全体のラフなスケッチを得ることができた。 以上は、当研究課題の当初の計画で設定した3個の研究課題について、当初設定したタイムテーブルがおおむね実現されていることを示している。よって「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当研究課題は半線型放物型方程式を例として、「非コンパクトな軌道をもつ時間大域解の漸近挙動を、プロファイル分解を用いて解析する」ものである。そのような方程式の例として、(1)ソボレフ臨界指数を持つ放物型方程式、及び、(2)ソボレフ劣臨界指数を持つ、空間全領域で定義された放物型方程式を例として扱う。前者は「スケール不変性」、後者は「平行移動不変性」という、代表的な非コンパクト変換群のもとでの不変性を持つ。 さらに、これらの例の解析を通じ、(3)「コンパクト軌道を持つ抽象力学系に対する既存の理論を、非コンパクト軌道を持つ場合に拡張する」ことも試みるものである。 課題(1)については現在、臨界ルベーグ空間の枠組みでの解の漸近挙動が得られている段階であって、理論的に自然な、ソボレフ空間の枠組みでの解の漸近挙動は、非負値解に対しての見えられている状況である。非負性の仮定なしで、ソボレフ空間の枠組みでの解の漸近挙動を得るにはこれまでとは異なる発想に基づく手がかりが必要になる。今後の研究では関連問題の既存の研究を検索することなどによりこの「手がかり」を探ることとする。 課題(2)についてはすでに論文を投稿したが、今後はこの論文の出版を目指す。また、同様の解析はpラプラス作用素を主要項とする非線型方程式に対しても有効であるので、これに対する結果を得ることを試みる。 課題(3)については現在、理論構築のカギとなる「拡張されたオメガ極限集合」の概念を暫定的に定義し、理論全体のラフなスケッチを得ることができたにすぎない。特に、「プロファイルが平衡点であること」についての理論的に自然な特徴づけがいまだに得られていないため、抽象理論を全面的に展開するに至っていない。まずはこの特徴づけを得ることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当研究課題開始時に計画していた海外研究者との交流や研究連絡、国際研究集会での参加などの活動が、コロナ禍によりほとんど実施できない見込みとなったため、2022年度は当研究課題と密接に関連する内容を専門とする研究員を雇用する。次年度使用額はこの研究員の雇用経費として使用する。
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