研究課題/領域番号 |
20K03683
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
吉野 正史 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 名誉教授 (00145658)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 大域的ボレル総和法 / 解の爆発 / バーコフ変換 / ハミルトン系 / 非可積分性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は非線形波動、非線形放物型、非線形シュレディンガー方程式等の爆発解の構成においてあらわれるハミルトン系にたいし、動く特異点を持つ解を構成しその性質を調べることである。そのための基本的な手法はバーコフ変換のアイデアをもとにして、変換方程式といわれる偏微分方程式を解くことである。研究実施計画では、ボレル総和法の一般化により、変換方程式の可解性を証明することがポイントになる。この計画に沿い、本年度も前年度に引き続き、変換方程式をボレル総和法を用いて解くための理論構成を中心に研究を実行した。具体的な成果は以下の通りである。 1)数理物理の方程式の特異解の構成においてあらわれるハミルトン系に対し、複数の特異点を持つ解をボレル総和法を用いて構成した。これらの結果はスペインでの国際会議(FASNET21)で講演(招待講演)し、論文として出版予定である。さらに2022年3月に埼玉大学で開催された日本数学会年会の一般公演で講演した。 2)解析的非可積分なハミルトン系に対して、角領域での可積分性を証明した。証明はハミルトン系の第一積分を形式級数として構成し、偏微分方程式に対するボレル総和法を拡張して、角領域での第一積分を構成した。この成果は京都大学数理解析研究所での国際会議(Wxact WKB Analysis, Microlocal Analysis)で講演し、論文は同研究所の雑誌に投稿中である。 3)変換方程式の可解性を楕円関数とボレル総和法を用いて証明した。 これらの結果の意義および重要な点は a) 偏微分方程式に対するボレル総和法を大域的に拡張して変換方程式の可解性が証明できたこと、 b) 複数の動く特異点を持つ解を、変換論を用いて、ハミルトン系に対して構成できたことである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画のうち重要な部分は、変換方程式の可解性をボレル総和法を用いて証明することであり、そのために必要な偏微分方程式に対するボレル総和法の拡張を実行することであった。そのような拡張の際、従来の方法では困難な点があったが、それを解消し、ほぼ計画通りの成果を得ることができた。他方、動く真性特異点あるいは動く自然境界をもつ解の構成のための準備研究はまだ想定したとおりの成果が得られていない。この点は3年目以降の研究で引き続き実施する。偏微分方程式に対するボレル総和法は予期した以上の成果が得られ、別の応用として解析的非可積分なハミルトン系の特異第一積分の構成を証明することができた。 対面での国際会議参加、共同研究等は計画した通りには進んでいない。従来の対面での研究会や共同研究が遠隔型に置き換わっており、新しい状況を生かした研究スタイルと国際交流のやりかたはまだ試行錯誤中である。現在のところ、オーガナイザーとして国際会議をポーランドのBanach Centerで開催する予定で計画が進んでいるが、人の移動を伴う国際会議の開催は、国際状況と費用の問題で研究計画で予定したより遅れがちである。これは時期を勘案しながら、研究の3年目以降に実施する予定である。以上を総合的に考えて、研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は原則研究計画に沿って行う。すなわち、数理物理の方程式の特異解の構成においてあらわれるハミルトン系に対し、自由度が一般で制約条件をできるだけ緩めた場合に、本年度に得られた結果を拡張する。実際、対応する変換方程式の可解性を示すとき、ボレル総和法において新しい問題が起こってくる。それを取り扱う方法を開発する。また、楕円関数や超楕円関数を用いた特異解の構成の研究に関しても、論文を完成させ精密化を行う。他方、動く真性特異点あるいは動く自然境界をもつ解の構成のための研究を継続する。 これ以外に、解析的非可積分なハミルトン系の第一積分の特異性の問題に新しい応用が可能になったので、これを進める。すなわち、解析的非可積分なハミルトン系の特異第一積分の存在をもとにして、transseries解の構成に応用する。さらに接続問題に応用する。これらは結局どこまでボレル総和法の拡張が可能であるかということにも依存するので、これができればさらに新しい応用の可能性が広がると期待できる。 他方、国際会議の開催計画は現在進行中であるが、ポーランドでの対面の開催が可能であるかどうか社会情勢の様子を見ながら情報収集を進め、当該国の研究者との連絡を取りながら計画をすすめたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、現在の感染症の状況あるいは国際情勢により、多くの国際会議と国内研究集会および学会が開催中止あるいは遠隔開催になり、旅費の支出がなかったことが大きい。その他の研究書籍、情報機器、文献等の費用は通常の場合とほぼ同額支出している。現在、当該研究の研究代表者がオーガナイザーとして参加して、ポーランドのバナッハセンターで対面宿泊形式での国際会議の開催準備が進行している。これは通常より長期間の海外出張となるはずでその支出も想定されている。また国内の人の移動も平常に戻りつつあるので、国内研究集会、日本国内での国際会議、学会の研究集会も対面での開催が予定されており、国内旅費も通常に近い金額が支出されると予想される。これらのことをふまえ、今年度以降は、前年度に比べ予算執行額が増加すると予想される。
|