研究課題/領域番号 |
20K03684
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
川下 和日子 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 准教授 (40251029)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 逆問題 / 表面波と実体波 / 境界値問題 / 漸近解 / 表面の幾何構造 / 誤差評価 |
研究実績の概要 |
本研究では、地震波や電磁波等の実体波が境界や接合面に入射することによって現れる表面波の性質について数学的に研究し、逆問題等への応用を目指すことを目的としているが、研究期間の初年度に当たる令和2年度はその準備段階とし、まずは実体波の入射から物質表面の情報を取り出すことについての研究を行った。 逆問題では「指示関数」と呼ばれる観測データから定められる関数を解析することによって、調査対象の内部の空洞や介在物までの距離や形状についての情報を引き出すことを考えるのが一般的である。その際、指示関数のパラメーターを大きくしていった時の指示関数の漸近挙動、漸近展開が重要な情報源である。今回は散乱理論においてよく用いられる漸近解(近似解)を構成し、その表示を指示関数の解析に取り入れるという方針で研究を行っている。漸近解を用いることにより、指示関数の漸近展開の係数をより精密に調べることが比較的容易になると考えたからである。まずは指示関数のパラメーターによる漸近展開の初項に着目すると、調査対象物および観測領域双方の表面の幾何的形状を表す値とそれらの相互作用を表す値が共に現れることがわかった。これは、過去に行われている研究の修正、および精密化を目指しているものであり、一定の結果が得られつつある。一方その過程で、近似解を用いる際に現れる誤差を評価するために、対象物表面についての高い「滑らかさ」にあたるものが必要となる状況も明らかになった。これに関しては、さらなる検討と打開策が必要な状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度は本研究期間の初年度であり、最初の足がかりをつかむための大切な時期ではあったが、残念ながら十分な結果は得られなかったといえる。コロナ禍によって、オンラインでの教育・研究を行うために、新しい機器を導入して試し、次の状況に対応するためにまた新しい方法を試みるといった挑戦が常に求められ、多くの時間とエネルギーを割くことになった。しかし一方で、置かれた状況から学んだことも多かったと感じている。感染防止のために出来なくなったこともあるが、オンラインによって機会や可能性が広がった一面もある。厳しい1年ではあったが、これからの時代を見据えて、共同研究や研究交流のあり方を見直していくという意味では重要な1年であったと思う。 本研究の目的である表面波の研究とその応用については、準備段階から一歩も出ることが出来なかったというのが現状である。現在は、表面波ではなく、実体波に対応する漸近解を用いて空洞や介在物の表面の状態を調べるという観点で考察を進めている。このような目的においても、やはり実体波が主要な役割を果たしている。発射された波が対象物に到着して観測点に返ってくることによって情報が得られるので、実体波から情報が得られるというのが自然であり、表面波そのものから何らかの情報を導きだすことは、現在用いている解析方法からでは実現できないと言える。また、漸近解を用いる際に生じる誤差を評価するために対象物の表面の滑らかさが必要になってくる理由として、データに対する漸近解の滑らかさが、対象物の接平面の方向には上がらないということが挙げられる。これについても、表面波との関係も含め、さらに検討していきたいと考えている。 現在のところ、表面波を扱うことの難しさを再確認するような研究状況となっており、厳しい状況ではあるが、逆問題や漸近解について学びつつ、足場を固めて進めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは現在進めている漸近解の方法で一定の情報を取り出せることを確認し、結果をまとめることが、最初に行うべきことである。そのステップまでが、当初予想していたよりも難航しており、なかなか前進できていないのが現状である。この観点でどこまでの結果が得られるかを見極めたいので、それができた時点で次の方針をはっきりと決定する予定である。その後の方針としては、(1)このままもうしばらく逆問題の観点から研究を進めるか、(2)一旦逆問題から離れて表面波のエネルギー分布の観点へ立ち返るか、の2つの方向性が考えられる。漸近解を逆問題に用いる方法の良さが一定以上に確認できたならば、もう少し(1)の方向で研究を進めていきたいと考えている。しかし、そのために乗り越えるべき課題も多い上に、本来の目的である、「本質的に表面波を用いる」という最終目標から遠のいてしまう可能性も否めない。それらのことから、(2)の方向性についても同時に検討していくことが必要であろうと考える。研究の進捗状況を逐次見極めながら、必要に応じて方向の転換を行う覚悟を持って今後の研究を進めて行きたいと考える。 コロナ禍による制限はまだ当面続くとみられるので、令和2年度中に準備した機器やオンラインによる方法などを活用して情報収集を行う方針である。また、必要に応じてこれら機器の拡充・更新、ソフトウエアの導入も行っていき、今後の研究を進めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は本研究期間の初年度であるため、申請段階の方針としては、情報収集・整理のためのパソコン等の通信機器の準備、図書等の資料の購入および情報収集・研究交流のための旅費・謝金が必要になると考えた。機器や資料等の準備については、コロナ禍によるパソコンおよびその周辺機器の需要増加があらゆるところでおきて入手困難や入荷待ち等も生じたが、最終的にはおよそ必要なものをそろえることができた。一方、コロナ禍のため、人の移動を伴う出張による情報収集は難しく、旅費や謝金の支出が出来なかった。また、研究の進捗状況としても遅れてしまっているため、成果報告等のための支出も令和2年度はできなかった。以上のことから、次年度使用額が生じている。現在も新型コロナウイルスの脅威は世界的に続いており、今後も感染対策は欠かせない状況である。よって、当面は通信機器を用いての情報収集・研究交流が中心になると思われる。令和3年度は、令和2年度に準備した機器等を活用しつつ、新たに必要となる機器の拡充・更新、ソフトウエアの導入も行っていきたい。その中で、まずは現在の手法による研究を成果報告が行えるレベルまでまとめ、更に、次の段階へと研究を進めていきたいと考えている。
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